TOUGH/ダイヤ精工

 

★2022年2月7日追記

薄口Long&Lightのフラットをやっと手に入れることが出来ました。

2年掛かりました。

これでTOUGHは全種類がやっと揃ったことになります。

写真手前が今回手に入れたフラット⑬、奥はスパナ部にオフセットを付けたプレス曲げ⑫。

軽作業や卓上工作で便利に使えるコンビレンチですが、形状や打刻のデザインが秀逸で、私の好みです。

 

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TOUGH/ダイヤ精工です。

前衛的なデザインのモデルもあり、燕三条でAIGOと共に興味深いメーカーでした。

1984年に倒産した井上製作所から事業を継続する形で新会社ダイア精工として再出発し、精力的に商品を増やしていきました。

TOUGHモデルは未だにオークションに度々登場していますが、残念ながら2005年にハンドツール類の生産販売から事業撤退しています。

2000年前後は燕三条の金属加工メーカーにとって色々な決断を迫られる激動の時期だったようです。(複数の工具メーカーが事業撤退や廃業、倒産をしています)

後述しますが、TOUGHロゴは、井上製作所時代に商標出願されていて、TOUGHの初期モデルは井上製作所/I.S.時代に生産されたと推測しています。 

*創業…1984年(前身の井上製作所は1950年創業)、事業撤退…2005年

*TOUGH商標登録…1986年(出願1982年)、JIS認可取得…1994年(コンビレンチ)

*製造記号…DIA

 

1.一覧表

 

2.商品解説

 ①-1 凸丸パネル/プレス曲げ 

・TOUGHの初期モデルで、凸丸パネル。

・メガネ部のオフセットがプレス曲げ。

・また、スパナ部と胴長がつながるエラが大きくなっているのが特徴。

・裏面左側に縦2段の製造記号。(7M+3)

 

 ①-2 光沢仕様 

・梨地仕上げが通常ですが、表面が平らな光沢仕様もあります。(写真下側のモデル)

 

 ①-3 OEMモデル/Silver 

・ブランドSilverのコンビレンチが日本(青森、埼玉)で見つかっていて、一方でアメリカでは出回っていませんので、日本ブランドの様です。

・スパナ部エラ形状と裏面製造記号がTOUGHモデル①と同一ですので、ダイア精工のOEMと考えるのが妥当です。

↓通常モデル①(写真上側)とSilver(下側)の比較

 

 ② 凸丸パネル/プレス曲げ/早回し 

・TOUGHには早回し仕様が3種類ありますが、その最初のモデルです。

・スパナ部エラ形状と裏面製造記号がモデル①と同一ですので、モデル①の派生モデルになっています。

↓通常モデル①(写真上側)と早回し②(下側)の比較

 

★『"ダイア精工"製では無く、前身の"井上製作所"製の可能性』

・製造記号の"81E+3"より1981年製を意味していると考えるのが素直な解釈だと思います。

・さらに、生産月は"E"より5月、または"3"より3月のいずれか。

・したがい、冒頭で説明の通りダイア精工は1984年の創業ですので、このモデルはダイア精工以前、すなわち井上製作所製の可能性があります。

・井上製作上は、1979年に『ニュータフレンチでPATを取得』し、さらにTOUGHロゴを商標登録のために1982年に出願していますので、このTOUGHモデルが井上製作所製でも全くおかしくはありません。(私は井上製作所製と考えています)

・つまり、言い換えるとTOUGHブランドは井上製作所時代に始まり、ダイア精工になっても継続したのだと思います。

・同じ凸丸パネルでも、モデル①&②共にプレス曲げで、後述の③~⑤は鍛造曲げになっていて、このプレス曲げ(+エラ大)と鍛造曲げが井上製作所とダイア精工の切り換え点だろうと推測しています。

 

 ③ 凸丸パネル/鍛造曲げ 

・①、②と較べるとぱっと見では差が分かりませんが、スパナ部のエラが小さくなり、またメガネ部オフセットが鍛造曲げに変わっているのが識別点です。(前述の通り、このモデルからダイア精工が始まったと考えています)

 

 ④ 凸丸パネル/鍛造曲げ/TOUGHロゴ上下ライン 

・TOUGHロゴの上下にラインが入っているバリエーションを見つけました。

・他のモデルには必ず入っているJAPAN刻印が裏面の丸パネル内に何故かありません。

・1986年に商標登録(出願1982年)されたTOUGHロゴは上下ラインが付きですので、このモデルの方が登録された商標に近いことになります。

・オーストラリアでもTOUGH上下ラインモデルを見つけました。

・これにも丸パネル内のJAPAN刻印が無く、代わりに丸パネル外に取って付けた様にJAPAN刻印が入っています。

・日本から輸出する場合には日本の法律でJAPAN刻印が求められるため、後付けで刻印したのではないかと推測します。

 

 ⑤ 凸丸パネル/鍛造曲げ/早回し (IKEDAからのOEM供給) 

・オフセット鍛造曲げにも早回しモデルがあります。

・早回しスパナ部分を除くと、IKEDAモデルと全く同一です。(裏面製造記号の取り方も同一)

・池田工業/IKEDAがダイア精工/TOUGHにOEM提供したのか、またはその逆のどちらかになります。

・ダイア精工が2005年に事業撤退した後の2007年にIKEDAは新JIS/JQAを取得し、IKEDAには同一形状の新JIS/JQAモデル(2007年以降製)がありますので、TOUGHの早回しモデル⑤はIKEDAからのOEM供給であることが分かります。 

 

 ★IKEDAと同一モデル 

・TOUGHモデルは"90L"から1990年12月生産、IKEDAモデルは"01C"から2001年3月生産。

 

・IKEDAの新JIS/JQAモデル(2015年2月生産)

・IKEDAは2015年でも継続してこのモデルを生産していることから、ダイア精工/TOUGHの早回しモデル⑤はIKEDAからのOEM供給だったことが分かります。

 

 ⑥ ミラーフラット/JIS 

・ダイア精工は1992年3月にコンビレンチのJIS認可を取得していますので、このJISモデルは1992年以降の生産になりますが、社歴に『1994年10月からレンチのミラー化を推進』と謳われていますので、1994年からの生産と思われます。

・TOUGHロゴが、直立文字から斜め文字に変わりました。

・裏面にダイア精工の製造記号であるDIAが刻印されています。

↓6本セット

 

 ⑦ ミラーフラット/早回し 

・3種目の早回しモデルで、モデル⑥の派生になります。

・こちらにも裏面にDIAの刻印が入っています。

↓通常モデル⑥(写真上側)と早回し⑦(下側)の比較

 

★TOUGH早回し3種

・アメリカの早回し特許US2652735が1970年代に特許権が切れていて、3種共に採用フリーになったそのデザインを採用したものと思います。

 

・日本で最初に早回しスパナを採用したのはスーパーツールです。

・上から順番に第1世代(1954年~58年)、第2世代(1958年~68年)、第3世代(1968年~82年)、第4世代(1982年~現在)。

台湾Infarも同種の早回しモデルをカタログに掲載させていて(実売りは?)、InfarからのOEM供給製品として多くのブランドに同じデザインの早回しモデルがあります。

 

↓元の特許US2652735

 

 ⑧ ミラーフラット/ヘキサゴンスパナヘッド

・スパナ底部が6角(ボルト頭形状)になっているヘキサゴンヘッドは、日本では非常に珍しい存在です。

・これまで3例(池本貿易/KingCraft江東産業/KOTO日本製OEMのアメリカブランドContinental)しか見つかっていませんでしたが、TOUGHで4例目を見つけました。

・オークションで入手していますが、この入手品以外はこれまで全く見たことがありませんでしたので、超希少品かと思います。

 

・JISマーク付きのミラーフラット⑥は斜め文字のTOUGHロゴですが、ヘキサゴンヘッドは直立文字TOUGHですので、⑥よりは時代が古いモデルと思います。

 

 ⑨ 凹丸パネル/ディープオフセット(DINタイプ) 

・ディープオフセット(いわゆるDINタイプ)のTOUGHモデルです。

・3つに分割された凹丸パネルは独Hazetなどに見られる形状です。

・クロームの表示が英語の"CHROME"であり、ドイツ語の”CHROM"ではないことから、イギリスなどの英語圏向けなのかと推定します。

・ダイア精機の前身である井上製作所の沿革によると『1964年から欧州にコンビレンチを輸出』していたとのことですので、このモデルも元々はヨーロッパ輸出用なのではないかと思います。

・モデル①、②と同様に、井上製作所時代からのモデルかもしれません。

 

 ⑩ 凹丸パネル/ディープオフセット(DINタイプ)/逆向き文字(裏側) 

・モデル⑨と同一デザインですが、裏面の刻印が逆向きになっています。

・また、表面が梨地では無く、光沢になっています。

 

 ★OEMモデル/英国HILKA 

・イギリスのブランドHILKAにJAPAN製の同一モデルがあります。

・スパナ部のエラ形状がTOUGH独特の形状であることから、TOUGH(ダイア精工または井上製作所)からのOEM供給だと考えるのが妥当です。

・裏面文字が逆向きですので、モデル⑩の同一モデルになります。

・イギリスのブランドですので、クロームが英語の"CHROME"になっています。

 

・一番上のTOUGHと2番目HILKAは同一モデルですが、3番目はほぼ同じ形状のNTKモデルです。

・スパナ部エラの標準的な形状になっていて、TOUGHとは異なることから、3番目はNTKのオリジナルだと思います。

・クロームがドイツ語の"CHROM"になっていて、ドイツ輸出が念頭にあったのだろうと思います。

 

 ⑪ ミニ凹四角パネル 

・TOUGHはミニシリーズとしてコンビレンチ5種(4~6mm)、メガネ5種(3.2~9mm)、イグニッションスパナ7種(5~12mm)をラインナップしています。

 

・コンビレンチ5種の内、4.5mmが抜けています。

 

 ★ミニシリーズ3種 

 

 ★ミニスパナの別モデル 

・ミニシリーズ(写真下側)は凹丸パネルになっていますが、フラットタイプ(上側)があります。

 

 ⑫ 薄口Long & Light/プレス曲げ 

・とても前衛的なデザインで素敵です。

・鋼板プレス打ち抜き製法と思いますが、フラットな薄口になっています。

・メガネ部のオフセットをプレス曲げで確保しています。

・パッケージにOriginal Design(下の写真)と謳われていますので、TOUGHオリジナルと思います。

・パテント/特許を示す"PAT.P"が刻印されていますが、このコンビレンチ形状に関するパテントなのか不明です。(パテント検索ページではラチェットレンチに関する特許しか登場しないため)

・JAPAN刻印が無いことから、生産自体は台湾または中国の可能性があります。

 

 

 ⑬ 薄口Long & Light/フラット 

・薄口Long & Lightにフラットモデルもあります。

・唯一入手出来ていませんので、物色中です。

 

 

 ⑭ 薄口Long & Light/スパナ版 

・カタログでは薄口LONG & FLATのコンビレンチ版しか確認できていませんでしたが、スパナ版のフラットがあるのを見つけました。

 

 【番外】 あ、騙された!

『また新しいTOUGHを見つけた!』と喜んでいたら、写真を撮っていて気が付きました。

TOUGHでは無くて、TOUCHでした。(タフ⇒タッチ)

作りがとても雑で、Japanの刻印も無く、変だとは思っていましたが、スパナ部の形状は③と全く同じだし、さらに文字の字体も同じだし、間違えられることを期待して作られたみたいですね。

ちなみにコーナンでの販売品。

 

3.カタログ

1)最終Webサイト(2005年10月)

ダイヤ精工は2005年10月にハンドツールの生産販売終了を発表しました。

Internet Archiveでその時のTOUGH最終Webカタログが確認出来ます。

また、その時のホームページ表紙会社概要もInternet Archiveに保存されています。

なお、在庫販売も終了したのか1年後の2006年10月を最後にダイヤ精工のWebサイトからはハンドツールTOUGHに関する情報が消えています。

 

★これ以降の最終Webカタログは、写真が表示されないため、後加工で貼り付けたものです。

↑ミニスパナは、イグニッションレンチ7本セットの4本を抜き取ってセットに仕立てた様です。

(貼付写真はイグニッションレンチ7本セット)

↑タペットスパナを見たことが無いため、写真は貼り付けてありません。

 

2)最終の紙カタログ(2004年頃)

紙カタログの最終版です。

コンビレンチ、スパナ、メガネ部分だけ下に掲載します。

全ページ版はサーバーに保管してありますので、こちらをご覧になって下さい。

発行年月の表示が無いため、正確な発行日は不明ですが、最終Webカタログ(2005年10月版)より少し年代が古いと思いますので、2004年頃かと思います。

肝心のコンビネーションレンチ(23頁全部)と両口スパナ(24頁の一部)が欠落しているのが残念ですが、最終Webカタログ掲載のミラータイプコンビレンチは載っていたものと思います。

 

↓22頁

↓23頁の一部

↓24頁

4.商標登録

商標としてTOUGHの(1)直立文字、(2)直立文字+上下ライン、(3)斜め文字、(4)中抜き斜め文字の4つが使用されていますが、商標として登録されているのは以下の楕円+(2)の1種類だけになっています。

 

 

5.会社歴史

・1930年4月 …井上家の個人商店として家庭金物を生産開始

・1937年4月 …『井上錠前工場』に改称

・1942年10月~終戦…『東亜航空機製造会社』を設立し、エンジン分解工具を生産

・1945年10月…終戦により旧社名(井上錠前工場?)に戻り、家庭金物製造に移行

・1950年4月 …『井上製作所』に改称し、企業向け工具を生産

・1964年4月 …欧州向け両口スパナ、コンビレンチの輸出開始

・同年10月  …北米、オーストラリア向けの取引開始

・1972年6月 …モンキーレンチの生産ライン導入

・1975年7月 …ソケットレンチでJIS取得

・1976年6月 …モンキーレンチでJIS取得

・1979年8月 …スパナ、メガネレンチでJIS取得  

・同年同月  …ニュータフレンチでPAT取得(パテント検索ではヒットせず、何か不明)

*1982年11月…TOUGHロゴの商標登録を出願(⇒1986年5月にダイヤ精工として登録完了)                  

・1984年8月 …『ダイヤ精工株式会社』と設立(倒産した井上製作所を引き継ぎ)

・1992年3月 …コンビレンチでJIS取得

・1994年10月…レンチ類のミラー化を推進

・2003年1月 …ホームページ開設

・2005年10月…ハンドツール生産事業から撤退

ホームページ掲載の会社沿革/2006年2月版より(*TOUGHロゴは私が追加)

 

6.各種情報

1)会社概要(2006年2月ホームページより)

 

2)スパナ関係の生産終了について(2005年10月ホームページより)

 

3)JIS認証

・ソケットレンチ …1975年7月(井上製作所として取得し、ダイヤ精工が継承)

・モンキーレンチ…1976年6月( 同上 )

・スパナ     …1979年8月( 同上 )

・メガネ     …1979年8月( 同上 )

・コンビレンチ …1992年3月(ダイヤ精工になってから取得)

※スパナ、メガネ、コンビレンチ認証番号…379123

スパナとメガネは1979年に井上製作所がまず取得。

同じB4630枠のコンビレンチは1992年になってからダイヤ精工として取得しているが、認証番号は同じB4630枠なので379123のまま。

 

4)ホームページ

ダイヤ精工(現在の会社Webなので、レンチ類は登場しません)

 

※初稿…2020年3月1日

 

この回、終わり