ユージュアル・サスペクツ | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

※ネタバレは書きませんが、なんとなく作品の流れがわかる文章になってますのでご注意ください。

 

現在の小学校の校舎事情はまったくわからないが、オレらの時代は

教室の後ろの隅に流し台があり、根元が回転する蛇口が3つほどついていた。

掃除で使う雑巾などはそこで洗い、喉が渇いたらそこで水を飲むのは日常だった。

 

ある日、隣りのクラスの教室でその流し台の蛇口3つに粘度が詰められるという

いたずら事件が発生し、それを先生がオレらのクラスにも報告して話題になった

ことがあった。そのクラスの誰かがやったのだろうけど犯人は不明のまま終わった

ようである。

 

それから数日後。

休み時間にたまたま自分の教室の流し台周辺を歩いていたら、床に小さな消しゴム

の欠片が落ちてたのを見つけた。

 

拾って捨てようと思い、ひょいとつまみあげたところで、ゴミ箱より先に飲み口が上に向けられた

ままの蛇口と目が合った。

 

そのとき、その消しゴムの欠片の大きさと蛇口の飲み口の口径がほぼ同じだという

ことに気づいた。

 

ずっと昔の話で時効とはいえ、いいわけするつもりはないしいけないことだとはわかって

いた。

正直、悪意もなければ、学校の所有物を破壊しようなんてことも思っていなかった。

単純にサイズの合うモノに合うモノをはめ込みたいという子供ながらのパズル的な好奇心

だったのだと今になって思う。

 

それと、おとなしくて内気な存在だっただけに、クラス内の目立つ連中から

悪口いわれたり、からわかれたりしても黙っていたという子供なりのストレスもあり、

ここで自分がなにかを仕掛けて、クラスで騒動になったら面白いかもというささやかな

楽しみを期待していたのもかもしれない。

 

隣りの教室で起きた事件を模倣して、オレはこっそりと目についた蛇口の飲み口に

拾った消しゴムの欠片をそっと詰め込んで、席に戻った。

 

翌日か翌々日だっただろうか。

詳細は忘れたが、隣りのクラスでまた別のいたずら事件が起きて、それをオレらの

担任がみんなの前でいった。

 

それを聞いたガキ大将グループ所属で目立ちたがり屋のKが、

「オレらの教室でも、なにか被害がでているかもしれない!」と叫び、急に立ち上がると

まだ先生が話している最中にもかかわらず、教室内のあらゆる場所を探偵気取りで調べて

歩きだしたのだ。

 

そして最後、流し台まできて3つ並んだ蛇口をすべて上に向けてそれを見て

こう叫んだ!

「先生! オレらの教室の水道のひとつにも消しゴムが入れられてる!!」

 

教室内がざわついた。

いってもたかが消しゴムなので、詰まって水道管が破裂したわけでもない。

またその蛇口で誰か水を飲んでしまったという衛生的な問題もまだおきてない。

(仮に飲もうとしても出方がオカシイから気づくはず)

しかし、予想以上の騒動になったため、ちょっとビビったのは事実だった。

 

例によって、子供は犯人探しや推理が好きだ。

隣りのクラスのいたずら犯が自分たちの教室まで手を伸ばしてきたという可能性

も含めて、クラスのリーダー的存在のやつが「このクラスなら誰がそういうことをやりそうか?」

といったようなことをいいはじめた。

 

容疑者として候補にあがったのはだいたい、

「普段からやんちゃで、よくいたずらしたり、物を壊してるクラスメート」

「弱い者いじめや、人の悪口ばかりいっているクラスメート」たちだ。

 

オレなんぞ、容疑者候補の隅の隅の箸にも引っかからなかった。

それどころかクラス内の雰囲気から察して、まず誰がいうまでもなく容疑者リストからは

最初からはずされているような空気だった。

真犯人だけど。

 

蚊帳の外で行われている犯人探しを静かに見守りながら、クラスを騒がせて申し訳なかった

という想いと、普段から素行の悪い連中は自業自得で、ここに来て冤罪という代償を

払ったのだという想いを複雑に交錯させた。

有名な童話の「ウソつきオオカミ少年」の現代版だと。

 

さきほど書いた通り、オレなりの申し訳ない気持ちと反省もあったのは本当だが、それゆえ

同時にこの件をきっかけとして、オレの中で黒く鈍く閃いたこともあった。

 

大衆の心理において、普段まじめに静かに人を傷つけず生きている人間は、

なにか事件や騒動があっても人から疑われる可能性は少ない。

なので、ここぞというとき意図的に企んでなにかをおこし、その疑いを評判の悪い人間へ

かぶせるとことも可能ではないだろうか、ということだ。

 

まじめに生きている人間は、粗暴な人間や小ズルい人間に比べて損ばかりしている

傾向がある。

だけど、それは「信頼性の貯蓄」だと思えばいい。

いざ、意図的にワルいことを実行するときのため、今のうち疑われないための人間性を

固めておくのだ。

 

もちろん、想像の世界の話だから実際はそんなことやらないし、やる度胸もないのは改めて

いうまでもない。

犯罪レベルなら警察の捜査で一発で即バレだろうし、百歩譲ってやったとしてもあくまで

身内内騒動レベルのことだ。

 

でもやはり「ウソつき狼少年」の理論ていうのは結構リアルだなあと、そのとき感じた。

 

刑事ドラマとかでも、だいたい最初に冤罪でパクられるのはわかりやすいほどの

チンピラっぽい風貌の人物。

 

子供のころよく読んでた「小学○年生」とか「学研」の中のコーナーでもたまに

推理クイズコーナーがあって、

『下の絵の中の人物のⒶからⒻの中に犯人がいます』などという問題が出てて、

その中にたいていひとりかふたりは見るからにアヤしいヤクザやマッチョがいるのだけど

そういうのはほぼ犯人ではない。

 

「一番人がよさそうなやつ」

「一番弱そうなやつ」

が犯人の率が高いのは定番である。

 

誰かの小説にも似たようなニュアンスで、

「いつの時代でも裏切り者や黒幕の正体は一番献身的だった人間」という一文が

あったのも思いだした。

 

と、いう前置きを添えたうえで、いくらか前に高校の同級生から勧められた映画を観てみた。

『ユージュアル・サスペクツ』

 

 

 

――

コカインの取引現場を何者かが襲撃し、密輸船が爆破して大量のコカインと9100万ドルが消えた。

警察は唯一の生存者キント(ケヴィン・スペイシー)の尋問を始める。

キントは、事件の黒幕は誰も顔を知らない大物ギャング、ソゼだと語り、彼がキートン(ガブリエル・バーン)

ら5人のワルを集めて襲撃させたというが…。
   ブライアン・シンガー監督の出世作となった傑作犯罪映画。登場人物に善人などは皆無で、

ピカレスク要素を漂わせつつもどこか閉塞的な心理サスペンス・ミステリーが繰り広げられていく。

一癖も二癖もある個性派を集結させてのキャスティングも素晴らしい。

アカデミー賞助演男優賞(ケヴィン・スペイシー)およびオリジナル脚本賞を受賞。

(amazonからレビュー引用)

 

 

正体不明の黒幕である「カイザー・ソゼ」によって集められ、「カイザー・ソゼ」の指示によって

犯罪を行うそれぞれの別の事件をおこした容疑者たち。

 

登場人物の中の誰かが正体を隠した「カイザー・ソゼ」なのだが、カイザー・ソゼ本人以外は

誰がカイザー・ソゼなのか互いにわからない。

(厳密にいえば本人以外ということでもないのだが、あえてここではそういっておく)

 

レビュー内容と重なるが、物語は密輸船爆破事件の唯一生き残った犯罪者グループメンバー

であるキント(ケヴィン・スペイシー)が取調室で過去を語りながら時間をさかのぼる回想

場面で進んでゆく。

なので、場面の時間の流れはすべて取り調べ室の中の出来事だ。

そこがまたキーといえばキー。

 

今はやたら「ラスト数分で大どんでん返し」という流れの映画が多い。

オレの場合、ここ最近のそういう映画ばかり先に観てしまっていたから、この

「ユージュアル・サスペクツ」も途中でオチが読めてしまったけど、この作品は

何気に公開は90年代であり、友人曰く実は今溢れている「大どんでん返しモノ」の先駆けが

この映画という話である。

 

なので、もし公開当時にこの作品を映画館で観ていたら、もっと斬新に感じて意表をつく

ラストに吃驚仰天だった可能性は否めない。

 

やや予定調和な点もあるけど、それでも心拍数があがるようなスリリングなシーンもあり

DVDや地上波でみるには十分楽しめる作品だ。

 

ナイツの塙は某雑誌の「一番好きな映画」という特集で、この作品を挙げていた。

 

蛇足だがキント役で出演していたケヴィン・スペイシーは今プライベートなことでちょっと

大変なことになってる(汗)