人生の空から | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

 

昔やっていたダウンタウンMCの音楽番組の中で、わずか数回だけではあったが

「だれやねん」というコーナーがあった。

 

CM明けに浜田雅功が

「さあ、続いては『だれやねん』のコーナーです!!」

といってはじまる。

 

企画内容はそのタイトルのとおり、あまり売れていない無名のアーテイストや

デビューしたばかりの新人アーティストを一組紹介するコーナーである。

 

たまたま一回めを観ていたのだけれど、その時のゲストはたしかまだブレイクしてない

時の「ウルフルズ」だったと思う。

 

紹介されたウルフルズのトータス松本が、

「(売れてないとはいえ) もう長い間バンドやってるので、誰やねん!ていわれても

困るんですけどね(笑)」

みたいなことをいってた記憶が残っている。

 

たしかに当時のウルフルズは世間一般にはしられていなかったが、このコーナーで

「ガッツだぜ!」を披露したことによって、人気に一気に火がついたのだと記憶する。

 

同じようにテレビに出演することのある歌手だとしても、「有名人」と「芸能人」だと

微妙にニュアンスが違ってくる。

 

有名人は読んで字のごとく有名人だが、プロの歌手でも無名な人はたくさんいる。

 

だから、ものすごーく余計なお世話で余計な心配だけど、歌手にかぎらずメディアに

でることのある人は、いわゆる「自分の位置づけ」を客観的に判断するのが大変なんじゃ

ないかなと思う。

 

たとえばある俳優さんが新幹線に乗って、車内を移動していたら、大御所の大先輩役者が

シートに座っているのを発見して、そこからどーしたあーしたとかいうエピソードトークは

よく聞いたりする。

 

そのシーンにおいての俳優さんの立場だが、仮にその時が初対面だとしても自分のほうも

それなりにベテランの域に達していたり、それなりの知名度があるのであれば挨拶する

ことに問題ないだろう。

 

だけど、もしオレがその俳優さんの立場で、その時ビミョーに露出しているくらいの芸歴も

浅い感じだったら、果たして礼儀的に挨拶するのが正解なのか、

それともやりすごすことが正解か?

 

もちろん、基本姿勢としては同業の大先輩を見かけたら挨拶するのが当然の礼儀だとはわかっている。

ただ、その大御所役者さんのほうが、ひよっこである自分のことをしっているかどうかという判断が

難しい。

 

しっているならば挨拶は結果として大正解だろう。

のちに仕事するかもしれない可能性まで考えれば「礼儀正しいやつ」というイメージアップになる。

 

だけど、もし自分のことをしらなかった場合、

「自分ごときが大御所に挨拶するなんて、無名のくせに自惚れてるんじゃないか、と思われる

んじゃないか…?」

と、オレだったら考えて悩んでしまう。

 

かといってスルーしたら、もし相手が自分のことをしっていた場合、

「あいつはオレがいたことに気づいたのに、自分から挨拶にこず無視しやがった」という

状況を招きかねない。

 

そんなケースを想像すると、やはり芸能人の人は客観的に見た自分の知名度や人気度を

把握しておかないと辛そうだなあとつくづく思う。

本当にパンピーの余計なお世話だが。

 

すこし前だったと思う。

北海道の空港で、出発するはずの旅客機が時間になってもなかなか離陸せず、中に乗っている

乗客が苛立ってきたということがあったらしい。

 

そんな状況の中、たまたまその機に乗客のひとりとして乗り合わせていた歌手の松山千春が

苛立っている乗客のためサービスで、客室乗務員用マイクを使い、自分の歌を披露してその

場の空気が一転し盛り上がり、神対応だと報道されたことがあった。

 

たしかに話題性としては十分過ぎるし、乗客のみなさんとしてもかなり嬉しかったと思う。

自分がその機に乗っていたとしても、きっと大興奮だった。

お客さんの中には、「飛行機が遅れてくれてよかった!」といった人もいたという。

その気持ちはわかる。

 

ただ……

これって歌手だったら誰がやっても神対応とか美談だとかいわれたってワケでもないとは思う。

 

知名度も実力もある松山千春だからこそ、乗客のみなさんも大喜びでワイドショーも取り上げた

のだと思う。

 

たとえばこれが、CMでいきなり名前だけでてきたころの「歌手の小金沢くん」とかがしゃしゃりでて

「みなさんを落ち着かせるため、私が歌でも歌いましょうか?」

とかなったら、「ぜひお願いします!」じゃなくて、それこそまさに「誰やねん!」のコーナーになりかねない。

 

ある程度、露出があったとしてもビミョーに売れている歌手とか、一時期だけ売れている歌手とか、

若い人には絶大な人気があるけど地方に住むジイチャン、バアチャンがまったくしらないような

歌手でもダメだのだ。

 

だからそこで、サムシング・エルスとかが揃ってでてきて、客室乗務員用マイクを使い3人で、

♪ギ~ブミ~ア、チャ~ンス~~ 最後に賭けてみたぁい~んだ♪

って歌うのも今の若い人は知らないかもしれないからちょっと違う。←失礼その①

 

森川由加里がでてきて、

♪ショウミィ~ ショウミィ~♪

って歌えば、その曲の時は乗客から「おおー」と歓声があがるかもしれないが、客が認知している

のはその1曲だけで、次にまったくヒットしなかった「HI!HI!HI!」を歌ったところで誰もしらずに

シーンとするかもしれない。←失礼その②

 

つまりは国民全体、そしてあらゆる年齢層から存在を認知されている歌手だからこそ、できた

申し出だといえる。

 

聞くところによると、客室乗務員用マイクも当然といえば当然だが、航空会社の人間以外は基本

使用してはいけないという厳格な規則があるらしい。

 

だけど、松山千春の場合は顔が有名だったため、「歌いましょうか」と訊かれた際に客室乗務員も

すぐ彼が松山千春だと理解して、機長に連絡と確認をとり、特例で松山千春にマイクを持たせて

歌ってもらったという。

 

どこのボーン・オブ・ホースだかわからない自分を有名だと思っている歌手がしゃしゃりでてきて

「歌いましょうか?」

といってきたところで、客室乗務員の間でそれこそ『誰やねん』のコーナーがはじまってしまう(笑)

 

とりあえずそこは突破したとして、乗務員が機長にたいし、

「あのう、○○サンという方が歌いましょうかっていっているんですけど……」

と伝えたところで、今度は機長の頭の中で、『誰やねん』のコーナーがはじまる。

 

百歩譲ってそこで機長のOKがでたとしても、マイクを持って歌い始めた時点で今度は

大勢の乗客のみなさんを観客とした『あいつ、誰やねん!!』のコーナーが本格的にはじまってしまう。

 

乗客のみなさんが喜んで、メディアも神対応だと報道したのは松山千春だったからこそだろう。

そして、そこで自分が歌いましょうか?と名乗り出ることができる松山千春こそ、自他ともに認める

存在だという揺るぎない自信をもっているということだと思える。

 

自信のない人間や、自惚れた人間がしゃしゃりでることほど、イタイものはない。

 

企業の朝礼や会議の時も終わりがけによく、

「訊きたいことがあれば、このあとなんでも質問こいよ!」と自信満々にいう上司がいたりする。

 

だけど、誰ひとり質問にいかない。

 

すると上司は、

「なんだ! どいつもこいつもやる気ないな!」

「自分から進んで訊こうという姿勢が見られないな!」

とか憤慨したりする。

 

でも実際は、やる気がないわけでもなければ、疑問に思っている点がないわけでもない。

ただ、みんな、その上司に訊いてもまともな答えが返ってこないことがわかっているから

時間の無駄だと思って訊きにいかないだけである。

 

そこにまったく気づかない上司はまさにイタイが、言い換えればある意味おめでたい。

 

まあとにかく、エンターテイメント的なことやアドバイス的なことで、自分からしゃしゃりでて

(というと聴こえ悪いがw)喜ばれるのは、自他ともにそれなりに認められてる者だけである。

 

あれは松山千春だったからよかった結果になったのかもしれない。

 

あ、そうそう。

どうして急に松山千春の件を音楽テーマで書いたかとうと、別にその飛行機のことが

あったからでもなければ、意味のない思い付きでもない。

 

以前も何度も書いているけど、オレは旅から帰った日の夜とかは旅情の余韻に浸りたいため、

吉田拓郎の「旅の宿」を恒例のごとくCDで聞くのだが、もう1曲聞く曲がある。

 

それが松山千春の「起承転結Ⅱ」というアルバムに収録されている「人生の空から」という曲。

人生の空から、と書いて「人生(たび)の空から」と読む。

 

吉田拓郎の「旅の宿」とセットで、この「人生(たび)の空から」は帰京日の夜、よく聴いている。

 

松山千春の曲にかんしては王道ながら、「長い夜」と「恋」が好きで、その2曲が収録されている

とのことで買ったアルバムの中にこの「人生の空から」が収録されていた。

 

アルバム買った時はノーマークだったが、聴いているうちに好きになり、今では「長い夜」と

「恋」よりも好きな曲となった(笑)