柚木麻子「BUTTER」 | 昭和80年代クロニクル

昭和80年代クロニクル

古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

 

BUTTER BUTTER
 
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今は一応受験シーズンということになるのだろうか。

受験生からとったアンケートによると、もっともいわれたくない言葉はやはり

「がんばれ」だそうだ。

 

その言葉がNGなんて概念は、もうとっくのとうに誰もがわかっている事実

だろうとオレは思っていたが、それでもこうしてアンケートの1位に選ばれるという

ことは、いまだに受験生に何度もこの言葉をかける人がいるということの証明だろう。

 

「受験生」と「精神が追い詰められている人」だけには、がんばれ!という言葉は

絶対いっちゃいけないのだ。

 

口には出さなくても、本人なりに頑張っていろいろ耐えているのに、それ以上

いわれると、まるでそんな頑張ってないみたいに聞こえるし、プレッシャーのとどめにも

なって、精神崩壊につながってしまう。

 

ただ、がんばれっていっているほうはいっているほうで、その人なりの優しさなのだろう

から、そこがまた人間関係の難しいところである。

 

いっているほうは優しさとして口から発信するが、受け止めるほうの心には先端がとがった

ミサイルとして突き刺さるようなもの。

 

優しさと凶器というのは紙一重だとつくづく感じる。

ずるくて腹黒い人間ならば、この理論を利用して、周囲には自分をいい人に見せたまま、

罪に問われることもなく、相手を陥れることだってできよう。

 

たとえば近所に嫌いな家族がいて、その家族の子供が受験生だったとする。

その家族のことを嫌いな母親が、その受験生の子供を受験に失敗させようと企む。

 

外を歩いてて出会ったり、すれ違ったりするたびに

「がんばってね」 「しっかり勉強してね」「お母さんをよろこばせてあげてね」と

笑顔で何度もしつこく声をかけて、プレッシャーで精神状況を破壊することが

できないことはないと思う。

 

また、そうやって声をかけているところを目撃されたとしても、第3者からすれば、

「あのお母さんは、人のうちの子供の受験でも、いつも応援してあげてエライわねえ」

といった感じに映るだろう。

 

罪にとわれることないどころか善人と思われたまま、人ひとりを奈落の底へと突き落とす

ことができるのだ。まあ、ジワジワした攻撃だから仕掛けるほうにも根気はいるけど。

 

優しい言葉だけでなく、美味しい料理というのもまた「幸福」であると同時に相手を

じわじわと破滅に追い込む「武器」となりうる。

 

数年前に後妻業という言葉が話題になった。

60代だか70代のオンナが、遺産目当てで高齢の男性交際者を死に追いやっていった

事件がきっかけだ。

 

追いやる手法はいくつかあったが、なにげに恐ろしいのは、手料理を味付けを日々濃くしって

いって相手の体調を崩させ、徐々に弱らせてゆくという手段。

根気のいる殺意だが、その段階では別に毒を盛っているわけじゃないから罪にはならない。

(もっとも、最後にとどめで毒を盛ればそれは犯罪だが)

 

このケースはさっきの説明とちょっと逆転してしまうが、受け手としてはその手料理は

自分のために愛情をこめて作ってくれた「優しさ」なのだが、作り手としては相手の体調を

すこしずつ狂わせてゆくためのゲリラ的栄養攻撃だったわけである。

 

そしてこの料理のテクニックにおいてもうひとり、

幸福と武器のふたつを使い分けて、男を陥れた毒婦がいた。

 

連続不審死事件で死刑囚となった木嶋佳苗である。

 

その木嶋佳苗をモチーフとした柚木麻子の直木賞候補になった小説、「BUTEER」を

年末に買って読んだ。

 

――

結婚詐欺の末、男性3人を殺害したとされる容疑者・梶井真奈子。世間を騒がせたのは、

彼女の決して若くも美しくもない容姿と、女性としての自信に満ち溢れた言動だった。

週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、親友の伶子からのアドバイスでカジマナとの面会を取り付ける。

だが、取材を重ねるうち、欲望と快楽に忠実な彼女の言動に、翻弄されるようになっていく―。

読み進むほどに濃厚な、圧倒的長編小説。

(解説から引用)

 

作品中に登場する梶井真奈子、通称カジマナ。

これもモデルである木嶋佳苗が、仲間内からキジカナと呼ばれていたことになぞって設定されている。

 

若くも美しくもないカジマナ。

そして体はふくよかだ。

 

どうして太っているかというと、彼女はいろんな料理が大好きだ。

そして節制という概念がない。

 

逮捕される前のカジマナにとって料理という存在は最高の幸せ。

 

美味しい料理がつくれれば、それは自分で食べても楽しめる。

そして、その料理を気に入ってくれる男が集まってもくる。

そんな男たちから金を手にすることができれば、その金で今度は高級店に

いって美味しいものを食べることができる。

 

自分自身は味わって楽しむことができ、同時に男たちを集めるトラップにもなる

まさに一石二鳥のツール。それが料理。

 

主人公である女性記者の理佳はそんなカジマナに興味を持ち、取材ターゲットとして、

東京拘置所の通い面会を続ける。

 

事件については語らないが、料理の話と、男性へ尽くす幸せにおける自分の哲学を語る

時だけはよくしゃばるカジマナ。

 

理佳はそれがカジマナの特殊な人間性だとわかっていながらも、彼女のことをもっと深く

しるためには彼女に近い世界へいって自ら経験してみるしかないと思い、カジマナがいう

とおりの生活(性も食も)をおくり出し、そして太ってゆく。

追求と翻弄がまさに交差する生活となる。

 

購入するまで、オレもちょっと勘違いしていたのだけれど、木嶋佳苗の人生を描いたような

作品ではない。

木嶋佳苗を意味するとされる容疑者の梶井真奈子に女性記者が翻弄されるのを描いた

ストーリーだ。そこは注意。

 

個人的な感想としては……

うーん、まあまあかな(笑)

 

純文学ならわかるけど、直木賞候補のエンタメとしては着地点もちょっとだけモヤモヤしてた

感はあるけど、楽しめるには楽しめたかもしれない。

 

ちなみにだが、モデルとなった張本人の木嶋佳苗は現在拘置所に入っているのだが、

支援者の人により拘置所内からブログを発信している。

 

この「BUTTER」という作品の存在はしってて、おそらく中身も読んだと思われるのだが、

自分がモデルとなっていることについて、全然違うと憤慨している様子。

参考に本人ブログをリンクしておく。

「当時のブログ」

 

いうまでもないがオレは実際に彼女とあったことも面会したこともないから、はっきり

いいきれないけど、でも裁判とかの発言とかを見ているとある意味で神経もブットイと

いうか肝っ玉だけは座っているような印象。

 

ふつう、最初は強がって主張したりギャーギャーいったりしても、死刑判決とかがでたら

一転して、それを回避するために弱気になって認めたりするわけでしょう。

でも彼女はその様子がまったくない。

拘置所の日記みても、余裕で新年の挨拶とかしている。

(確実に一連の事件を彼女がやったという前提での話、念のため)

 

人間は弱いから罪を犯すというが、そういった面でいうと彼女は強いのかもしれない。

 

今回は悪女の話だったので、次回の記事は綺麗な女性登場の記事という予告だけしておこう(笑)

 

今までも数人の有名人や著名人に文章中名前だけでも登場してもらったこのブログ。

2018年、昭和80年代クロニクル記事上に登場する記念すべきひとり目の‘有名人’は、

ベテラン女優「K」さん。

※急きょ内容変更の場合あり