涙そうそう | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。



パソコンでヤフートピックを見たら
「元芸人・北見被告に実刑」
という文字が。

そう言えば、今年1月に大宮に見に行ったよしもとのライブに出演していた
ベイビーギャングというコンビのカタワレもたしか北見という名前だったなと
ぼんやり思った。

ライブに行く前もベイビーギャングというコンビ名だけは知っていたが、顔とか個人名とか
芸風はまったく知らなかったから、それほど有名なコンビでもないだろうと思っていて、
ここで名前が出ている「北見」という元芸人も、あの時舞台に立っていたふたりのうちの片方
のことではないだろうと思ったのだが、本文に入ってゆくとあの時の北見という人だった。


そうだったのか、あの時は既にシッコーユーヨ中だったのねん。
そして今はもうすでに元芸人になっているとは思わなかった。



最近、生で目の前で見たことのある芸人の名前をヤフーの画面で見ることが続いている……。


もう6年くらい前……いや、たった6年くらい前と言ったほうが妥当だろうか。

夜に新宿の歌舞伎町で男ふたり女ふたりで飲み歩いていた。

男はオレとアニキぶんのコバさん。
女はアネキぶんふたり。
合計4人。


昭和の風景のレプリカのような内装の居酒屋を出たあと、適当に飲み歩いているうちに
例によって終電サヨウナラ。

さて、始発がモゾモゾと寝床から這い出す時間まで、どうするかと考えている時に
アネキぶんのひとりが
「前に一回行ったことある2丁目のバーに行って入れるか訊いてみる!」
と言った。


2丁目……それは未踏の地にして禁断のエリア。

そのケはまったくないが、今まで経験したことのないゾーンというだけに
興味あり。そういえば元巨人の二岡と山本モナもそこで撮られたんじゃなかったっけ?(古)

オレ以外もほとんど未経験エリアだったようでそれぞれ興味があり、そこはアネキぶんに任せることにして、とりあえず歌舞伎町から2丁目へ移動。

とある建物の前まで来たところで、アネキが
「ちょっとママに入れるか訊いてくるから、ここで待ってて」と言い、
2階にある店まで駆けていった。

どうやら基本はイチゲンさんお断りの店らしい。

入店確認と金額交渉をすませたアネキがすぐに出てきて「OKだって」とオレらに伝えた。

それを聞いて、店に続く階段を上がるオレら月下の一団。


『C』という店だ。

念のためイニシャル表記。
ただ、偶然にも先日書いた記事「半端の達人」の中に該当するワードがあるので、それがヒント(笑)。

いよいよ、人生初の2丁目経験。
禁断の扉が開かれた。


こじんまりとして落ち着いた空間。
室内は薄暗かった記憶。

だけど不思議な上品さがあった気がした。
先客は一組くらいいただろうか。


従業員のTさんというオジ…、いや、オネエサンの人柄が最高に面白い。
これぞ、ザ・2丁目。

当時公開していた映画の「ルーキーズ」に感動して5回以上映画館に観に行っては泣いていた
と熱弁していた。

そんなこんなでハウスボトルを少しずつ空けてゆくながら、時間もだんだんと流れてゆき
夜ももっとも深い部分になったあたりだった。

入口のドアが開く音。

「いらっしゃいませ~」というオネエサンの声。


場所が新宿だけに、こんな遅い時間でも入ってくるお客さんがいるんだなと、特に不思議に
思うこともなく、オレらは入口のほうに背を向けたまま、会話を楽しんでいた。


約1分後、
すぐそばに座っていたアネキぶんのひとりがオレの腕を指でつつきながら小声で

「ケンちゃん! マエケン! マエケン!!」

と言うではないか。

セリフの中に「ケン」が多くて一瞬混乱。

なんだなんだと思い、言われてさりげなく振り返ってみると、さきほど入ってきたらしい
お客さんがソファー席に座っている。

薄ぐらいフロアの中に浮かび上がるどっかで見たようなあの帽子姿。


お笑い芸人の前田健さんだった。


うちらは微妙にざわざわしながらも、向こうは明らかにプライベートで連れもいる。
ここは必要以上に騒いだり、なれなれしく話し掛けないようにとオトナの対応……
とは言いつつも、やはりちょっと気になるので揃ってチラ見(笑)。

それ以降、こちらはこちら、あちらはあちらでそれぞれの時間を楽しんだのだが
10分くらいたったら、前田さんがマイクを握ってカラオケを歌いだした。


曲は「涙そうそう」


あの帽子といい、見た目もビギンぽいが、歌がとても上手くてついつい皆で聞き入って
しまった。

テレビ番組の収録で歌うビジネス歌唱でもない。
芸人だからと言って、その場にいる客のウケを狙うような歌い方でもない。
思いきり正統派。

とても貴重な前田さんのプライベートの生唄だった。

ただでさえ小規模で常連さんがほとんどの店にその日はオレらのグループだけで
4人も店内にいてにぎわっていたため、あまり落ち着けなかったのか前田さんたちは
入店から1時間ほどで出ていかれた。


今回こういうことが起きたことで、実は昔からすごい人だと思っていたとか、
ファンだったとかいうような調子いいことを言うつもりはない。

だけど……まだ44歳か。

オレよりかは年上だけど若いっていえばまだ若いよな……


そして、やはりあの時に『C』で聞かせてくれた「涙そうそう」の上手さは
印象深い。

皮肉にもそれが今ではレアな歌声の記憶となってしまったけど。



お笑い芸人前田健さんのご冥福をお祈りいたします。