- 蛇を踏む (文春文庫)/川上 弘美
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もう何年も前、群馬県の水上駅からバスで行く山奥の巨大温泉にひとりで行った時のこと。
一軒宿なんだけど、大きな露天風呂がいくつかある(わかる人にはわかる)
そこで一番奥にある露天にしばらく浸かっていた。
すこしのぼせてきたあたりで、一度風を体に当てようと思い、その露天の上にある休憩所の
ようなところで休んでいた。
数分間、体から熱を逃したあと今度は別の露天に移動しようと思い、当然裸にタオル1枚のまま、道を歩いて移動していた。
なんせ山奥の巨大露天だから、道の上には枯葉は小石も落ちている。
だけどさほど気にせず、特に足元に注意することもなく、温泉でリフレッシュした気分でフフフンと
歩いていた。
その時だった。
地面の上にあった温泉をひく太いゴムの管を踏んでしまい、右足首をグリっとヒネって体のバランスを崩してしまった。
あぶないっ!!
と思い、慌てて着地した左足でふんばり、転倒は避けることができたが、ヘタしたら頭から
転んで強打していたかもしれない。
冷や汗が流れた。
しかし、いくら大自然のなかというのがウリモノの露天風呂とはいえ、せめてそういうゴム管やホースの管理くらいはしっかりしてほしいものだ。そう思った。
家庭に置いてあるような細くて柔らかいあの青い洗車に使うようなホースや管なら踏んでしまってもそれほど危険ではない。
だけど、オレが踏んだゴム管は足の裏が感知する限り、消防車のホース並みの太さと硬さだった。 だから見事に足首をグニっとしてしまい、バランスを崩したのだ。
心の中で「あぶねえな。温泉ひく管を歩道の真ん中にひくんじゃねえよ」と毒づきながら
ふりかえって自分が踏んだゴム管をみた。
ほんとに太い。そして長い。でかい。やけにクネクネしている……
そして、ゴム管の先端には鋭い眼がふたつ。
今度は冷や汗が流れるレベルではない。全身から血の気がひいた……
大蛇。
画像がないのが実に悔しいが、これこそ大蛇というものだというくらいのスケール。
わかりやすくいえば、タレントが動物園とかヘビセンターにいった際、よく首から掛けたり
体に巻き付けているようなアレよりも一回りでかい大きさ( ゚Д゚)
そんな大蛇がひとがたくさんいる巨大温泉の露天風呂の通路のど真ん中で、じっとしている
のだ。 死んでいるわけではないようだ。
そして、まったく気づかずそれを踏んづけたオレ(恐)
おどろきと恐怖が多すぎて、まず何から書いていいのかわからない。
まずは、いくら山奥とはいえこれほど人が集まっている場所に、こんなアナコンダの赤ちゃん
みたいな巨大なヘビが出現するんだなという驚き。
温泉の成分や温度におびき寄せられてきたのかもしれない。
それと、踏んだ瞬間、よく襲ってこなかったという安心感と恐怖とおどろき。
全体重を掛けて踏んづけてしまったにもかかわらず、ヘビのボディはまったくへこんだりつぶれたりしなかった。
ほんとに硬いゴムのカタマリを踏んづけたような感触だった。
ヘビもわめいたり、痛みで反撃したりする気配がまったくなく、その場で澄ました黒目をしたまま
じっとしていた。
普通に考えたら、踏んづけた瞬間に絶対「シャー!!」と牙をむいてくるはず。
その一方でこちらは完全なる裸。
どこを噛まれてもダイレクトに肌にくいこむことになる。
アメリカのパニックホラームービーとかでよくあるような、大蛇に大事なところをカプリとやられる
可能性だって、冗談抜きでありえたのだ。
それを考えると改めてよく襲ってこなかったなと思う。
その場を離れて別の露天に浸かってから再びその道にいってみると大蛇の姿は消えていた。
茂みに帰っていったようだ。
大蛇の体というのは意外と硬く頑丈で、体重約60キロの大人が全体重を掛けて乗っかっても
まったくびくともしないというのは勉強になった。
そして、貴重な恐怖体験だった。
これはオレのほうの蛇を踏んだという実話だか、こちらの本は公園に行く途中に蛇を踏んだら
その蛇が姿をかえて自分の母親を名乗り、踏んだ女性の部屋に来て住み着いたというお話。
川上弘美の芥川賞受賞作品。
近年、純文学と大衆娯楽の境目というものが難しくなってきているようだ。
純文学というのは、いわゆる商業的なものや起承転結のある活劇的なものでなく芸術性のある文章や、作者が表現したいものがストレートに出ているものといえよう。
だから、多少幻想的な話やSF的な話というのは、判断する人によって純文学と言えるか
微妙なのだ。
(オレはある程度現実離れした設定であっても、作者の書く文章に個性や芸術性があれば
それは純文学と言っていいと思っているが)
作者である川上氏も、この作品に関しては自ら「ウソ話」だと語っている。
芥川賞の選考委員のなかでも評論がわかれたようだけど、重要なのは設定よりも表現の仕方
だと思うから、オレは純文学と捉えていいかと個人的には感じた。
又吉の「火花」だって、純文学ではないという人は一部いるようだけど、あれはあれで純文学。
判断基準て人それぞれの感性でもあるから難しい。
でも、その人ありきっていうのもたしかにあるにはあるかも。
世の中の話題って。
「火花」も実際に読んで、とても面白いし素晴らしい文学で芥川賞受賞してもおかしくないと
思ったけど、又吉じゃなくて他の無名芸人が書いていたらそこまで話題にならなかったかなという気もする。
トレンディエンジェルの斉藤さんも、人柄よさそうですごく面白いから大好きなんだけど、あの
ふたりってハゲてなければ今ほどは売れていなかったんじゃないかな(笑)
あと、五郎丸っていう人。ラグビーよく知らないから別に批判するつもりはまったくないし
それなりの才能や功績はあるんだろうなって思うけど、名字が「五郎丸」じゃなかったら
メディアも世間もそこまで騒いだり取り上げたりしていなかったんじゃないかなとも感じる。
名字が「佐藤」「田中」だったとしたら、
「田中」とか「佐藤ポーズ」っていうのが流行語大賞にエントリーされていただろうか?
それはつくづく感じるわ。
そんなところで今回のもう一冊。
- 爪と目 (新潮文庫)/新潮社
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こちらも芥川賞受賞作。作者は藤野可織サン。
ミステリーチックな流れが話題だった。
父の浮気相手?のことを「あなた」という呼び方で見つめる幼い娘の視線を描いた世界感。
うーん、ごめんなさい。
嫌いじゃないし、文章も臨場感あったけどオレはちょっとハマらなかったかな(._.)
今度は別の作品を読んでみたい。