西加奈子「漁港の肉子ちゃん」他 | 昭和80年代クロニクル

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古き良き昭和が続いてれば現在(ブログ開始当時)80年代。昭和テイストが地味に放つサブカル、ラーメン、温泉、事件その他日々の出来事を綴るE級ジャーナルブログ。表現ミリシアの厭世エンタ-テイメント少数派主義ロスジェネ随筆集。

はいはい。書きたいことはいくつかあるけど、ローテ的にまず本から。


漁港の肉子ちゃん/西 加奈子
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あるオレの友人は会話の中で知らない人名が出てきたり、返す言葉が思いつかないと

とりあえず略す。例えば西加奈子だったら「ニシカナすか!ニシカナすか!」というように。

それはそれでまたうろたえるのが伝わって可愛かったりする(笑)


他にも、「○○の親戚?」と似たような人名だしてボケてきたりする友人もいれば

なんでも下ネタで返す友人もいる。

人間ていうのは会話の対応でクセや性格がある程度わかるからオモシロイ。


クセや個性というのは他人のモノは目につくが自分ではわかりにくいもの。

まわりの人間からみればオレもクセが多数あるらしいが、あまりにもクセ(特徴)が多すぎて

とくに目立つひとつのクセというのがないらしく、多趣味がこうじて無趣味になるように

クセが多すぎて、とくにクセのないようなイメージにシフトしつつあるようだ。

名誉か不名誉かワカランが。


この作品の中で出てくる「肉子ちゃん」もかなりアクが強い人物。

会話の中で出てきた漢字をなんでもすぐ分解する。


読んだのが少し前だから作品中での例は思いだせないが、例えば「音を聞いて!」と

言われたら、「音と言う字は‘立つ’に‘日’と書くんやで!」といちいち言う。

特に意味は無いうえに、毎回だからうっとおしい。


そんな「肉子ちゃん」

本名は「キクコ」だが、体系が太っているので街の人や娘から「肉子ちゃん」と呼ばれている。

物語は肉子ちゃんの娘からの視線と語り調で勧められる。

(ちなみに娘の名前も漢字違いで「きくこ」。なぜ同じ読みかは物語のラストで明かされる)


肉子ちゃんはヘンなテンションで、作者の西加奈子表現すつところの「つまりは糞男」みたいな

男に毎回騙される。でもそんな母親の肉子ちゃんを娘は友人のような視線で見守り共に過ごす。


タイトルにもある通り、2人は人情漂う漁港で暮らしているのだが、作品を読んでるだけで

漁港の潮や干物の匂い、テトラポッドでフナムシがカサカサ動く音が聞こえてきそうだ。


普段からヘンなテンションやヘンなリアクションだったりするけど純粋で約束は守るような

人というのはけっこう何処にでもいる。肉子ちゃんもそんなタイプだ。


初対面の時はヘンな人に見られるような人ほど、最後はみんなから好かれるタイプだと思う。


後半まではホームコメディのような流れだが、最後はちょっと泣かすオチが待っている。

「コクリコ坂」の中で『まるで安っぽいメロドラマだ』というセリフがあったが、ちょっとその流れに

似てるかな。悪い意味じゃなく。


西加奈子に関しては正直どちらかというと小説よりもエッセイのほうが好きだ。

今?これから?上映される「きいろいぞう」も原作の存在は知っているが読んでいない。

「通天閣」「窓の魚」はちょっと西加奈子っぽくないように感じた。


だが、「炎上する君」と、この「漁港の肉子ちゃん」は面白かった。


炎上する君/西 加奈子
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西加奈子は天才だと思う。言い回しがオモロイ。

最新作の「ふくわらい」が賞にエントリーされたり、「きいろいぞう」が映画化され、

それなりに作品は話題になっているのに、まだ読書家の間でくらいしか人物名が話題に

ならないのが悔しくてたまらない。

オレなんか、新刊購入する予算があったら紀伊國屋書店でのサイン会に行ってもいいと

思ったのだが。


本好きな人は西加奈子は絶対経由すべし。別に本好きじゃなくてもね。




今週のもう一冊。

深沢七郎の「楢山節考」

楢山節考 (新潮文庫)/深沢 七郎
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サルでもわかるように一言で言えば有名な「姥捨て山」のオハナシ。

生産性のない老人は山に捨てろという非情な掟が昔はアタリマエのようにあった。


悪しき風習でも歴史があるとそれが正当のような錯覚を起こすというのは現代の政策とか

教育方針とかにも通じるのがコワい。


裏に捨てるだけじゃ、カニだって這って戻ってきちゃうから、遠くの決められた山に捨てろと。

老人を捨てたらイカン!(ただしナベツネは捨てていいw)


でもね、なかにはマナー悪い老人や犯罪に走る老人も増えてて、そういう老人のために

若い人が年金を差し出す必要性があるのかという声も今は出てる。もっともごく1部の老人だが。


若かろうが老いてようが、時代が裕福だろうが戦後まもなくだろうが、いつの時代にも世代

カンケ―なく「ズルイ奴」「悪い奴」ってのはいるからね。なんとも一言では言えんわ。


でも、この本は一生で一度は読んでおくべき。