河村たかし名古屋市長の「南京事件はなかったのではないか、討論会をしたい」という発言が波紋を広げている。「話し合いたい」と呼びかけたら「交流を停止する」という回答が返ってきた。
中国側の対応の噛み合わなさが、発言の正しさを決定的に証明している。「話し合おう」と言っただけで、相手の本性を浮き彫りにした河村市長は、まさに急所を押さえたと言える。
J-CASTが、識者の言葉を掲載している。
http://www.j-cast.com/tv/2012/02/23123076.html?p=2
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早大大学院の北川正恭教授は「個人の立場で言うならともかく、公人の立場で外交問題を言ったらその責めは本人が厳しく負わなければいけない。ちょっと軽率」
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違う。理解していない。
河村市長は、一般的に南京事件に言及したのではなく、南京市が姉妹都市提携をしている日本の自治体の首長として、友好関係を深めるために必要だと思慮したことを述べたまでのことであり、当然、公人の立場で発言しなければ意味がない。軽率なのではなく(今回に限れば)思慮深いのだ。彼は名古屋市長でなければできない発言をしたのだ。
北川教授の思考は、ちょうど先日、広島県がチベット弾圧に対して述べた「中国政府の人権に関する問題など外交に関する事項については,国の専管事項であり,コメントする立場にないと考えます。」という姿勢に通じるものがある。姉妹都市名古屋が南京事件を避けて通るのは、友好県広島が四川省のチベット弾圧に沈黙するのと構図が似ている。
そして河村発言はここからが真骨頂だ。朝日新聞から。
http://www.asahi.com/politics/update/0222/NGY201202220008.html?ref=reca
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また、友好都市提携を結んでいる南京市に対し、「友好関係は不変で34年間重ねてきた交流を今後も継続したい」と関係の継続を求めた。
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「南京市政府が名古屋市との公の交流を当面停止すると発表した」反応へのうまい切り返しだ。簡潔でありながら、名古屋側が誠実な態度であること、また南京市の強硬な姿勢に面し、少しも刺激されていないことを内外に明らかにした。
国政に携わろうと思う者はこの河村の対応をしっかり覚えておくことだ。日本の為政者、識者が今回のような冷静な対応を繰り返すことで、事態を見守る他の国々が「本当は南京大虐殺など、なかったのではないか」という問いかけを始めるようになるのだ。適切な機会を捕らえた識者の発言に、加瀬英明のNEWS WEEK への掲載の例がある。
http://www.youtube.com/watch?v=mNo-DHQYk2U
この正反対が、尖閣諸島での漁船体当たり事件の際の菅直人のやり方だ。彼はこう繰り返していた。「大人の対応」。実際には、理不尽な要求をしてくる相手に対し、何も考えることができず、有効な手を持たず、非力な「幼児の対応」しかできなかったのに、政府は自らの無能を「大人の対応」という真逆の言い換えで粉飾したのである。
日本は相手と対峙することを恐れるあまり、問題を、より一層複雑で解決の難しいものにしてきた。中国と対峙することを恐れてはならない。問題を率直に取り上げることだ。
発言は、また、図らずも?、名城住宅跡地を中国総領事館用地として取得されるという事態を遠のける効果をも引き出したのではないだろうか。今回の”事件”は、名古屋総領事館土地取得移転問題の最中、これまでやられっぱなしだった歴史認識問題を日本の国益に繋げる仕方で利用する知恵を示したものでもある。「歴史認識」を逆手に取った形だ。
今回も中国は「交流の停止」を一方的に通告し、関係をこじれさせておきながら、こじれた責任を相手に負わせるという、いつも通りの、単純で、幼稚な対応に終始している。そしてこれからも、同じ反応を繰り返すものと思われる。中国の政治家が馬鹿だからではなく、日本に対して強硬な姿勢をとらざるを得なくなった国内事情が関係しているからだ。
日本に対してものが言えない”弱腰”な政府は先鋭的な人民の攻撃対象になる。反日を機会に始まる暴動も、やがて矛先が共産党に向けられ、一党支配体制が崩れることになりかねないことを政府は警戒しているのだ。南京事件、靖国参拝など、反日を育てるために利用してきた、まさにその「歴史認識」によって自らの首を絞めるというジレンマに陥っている。日本としては、中国という国のこの特殊な性格を、今後うまく利用することを考えたい。
彼らは日本の中へ侵入する機会を窺っている。経済を介して、またある時は媚中の政治家を利用して関係を深め、抜き差しならない関係にしてしまうというのが、中国の世界戦略である。その中国に自ら「交流を停止する」発言をさせたことは、今や、反日トピックが日本の外交カードになりつつあることを示している。
「ラブレターは結婚するまでは送る側の武器だが、結婚してからは送られた側の武器」。同じモノが攻守逆転して利用される様をよく言い表している。日本鬼子(ひのもとおにこ)に見られたような知恵のある切り返しが、日本外交のお家芸だと信じたい。