1993年に勤めていた情報誌を離職した。前年の秋に倒産した会社は、新しい引き取り手が現れて、すぐに復刊した。しかし、その会社の運営方針と編集の方向性が完全に食い違い、翌年の春にほぼ全員が離職することになった。(雑誌はまったく別のスタッフで、その後1年弱続いた)
そんな93年の春。離職した虚脱感から、しばらくは就職活動をする気にはなれなかった。せっかくのタイミングだしと1ヶ月ぐらい海外へ行こうと考えた。
そんな時に思い浮かんだのがパリ。それまで、フランス文化に思い入れなどなかった。パリへも同様。1度行ったことがあったけど、その時は、その前に滞在したローマの方が断然素敵に思えた。
でも1ヶ月過ごすならローマではない。選択肢はNYかパリ、ロンドンだった。パリにしたのはホテルや安そうだったから。パリには個人経営ホテルがたくさんあって、値段もリーズナブル。1ヶ月滞在となるとホテル代の出費が一番大きい。
結果、エアチケットと2泊分だけのホテルを予約。その2泊の間に、それ以降滞在するホテルを見つけることにした。
「地球の歩き方」を参考に安ホテルをリストアップ。当時はまだネット時代ではなかったので地図を片手に1軒1軒歩いて探した。
人気ホテルは素気無く「コンプレ」と断られ、逆に部屋があっても衛生的にどうかという気になったりで、20軒ぐらい探し歩いた。
やっと見つけたのが、サンジュエルマンのホテルの小さな1室。ここは不思議で、トイレは共同なのに、部屋にシャワーがついていた。
朝食はフロントに電話して「プチ・デジュネ、シルブプレ」とお願いするとプレートに入ったクロワッサンとカフェオーレに果物の朝食を持って来てくれる。
そのプレートを小さなバルコニーに出して、わずかに見えるエッフェル塔を見ながら朝食を楽しんだ。お隣はパリ大学の校舎。いわゆるカルチェ・ラタン。名画座も映画館も徒歩範疇でいくらでもあった。