小林信彦のミステリーが新鮮だった「サモアン・サマーの悪夢」 | con-satoのブログ

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 小林信彦が80年代に発表した小説「サモアン・サマーの悪夢」を読んだ。自分にとって小林信彦は、映画などエンタメにまつわるエッセイの人。最近まで、ほとんど小説を読んだことがなかった。

 今は絶版になっている作品も多く書店の棚には並んでいない。

 神保町の古本街に行くと、漁るように小林信彦の小説を探す。この本も、そんな1冊。タイトルも聞いたことがなかったような未知の小説。

 ハワイを舞台にしたミステリーだった。小林信彦のミステリーは初めて読んだ。もともとヒッチコックマガジンの編集長だったのだから、ミステリーを書いても不思議はない。

 「サモアン・サマーの悪夢」のサモアンはサモアのことではない。ハワイで秋になって異常な熱波が来ることを「サモアン・サマー」と呼ぶそうな。南国の憂鬱な秋に起こった悪夢のような出来事が描かれている。

 主人公は中年のテレビマン。ハワイに移住している、昔の恋人が死亡する。その原因に疑問があるとハワイの彼女の友人が知らせてくる。気になった彼はハワイに飛ぶ。

 ハワイに到着すると怪しげな老人が登場する。太平洋戦線の末期、激戦地フィリピンで部下を裏切って生き延びた、胡散臭い老人。昔の恋人はこの老人の愛人だったではないか、そして、彼女は死は、その情のもつれから老人に殺されたのではないかと疑う、という展開。

 ハワイに住む資産家の老人というのが妙にリアル。物語の後半、その老人は、彼の追跡を逃れるようにシンガポールに移動する。その老人を追いシンガポールまで飛ぶテレビマン。さて事件の真相は?

 途中登場するルポライターの女性がキーマンになる。登場人物は少ない。それぞれの人物が書き込まれてミステリーが深まる。うまい。

 小林信彦の小説、数作読んでいるけど、この人らしいシニカルさが魅力。物語運びもテンポ良くて、うまい小説家であることを毎度確認している。