宮本輝「オレンジの壺」ロマンス小説からガラッと物語が逆転する下巻の唖然な展開。 | con-satoのブログ

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 宮本輝の「オレンジの壺」。1990年代に4年半女性ファッション誌「クラッシィ」に連載されていた小説。宮本輝は舞台になったパリやエジプトへ取材旅に出かけたと、あとがきに書いている。

 物語の後半、舞台はパリからエジプトに移動する。エジプトには、かつてパリに住んでいた、老婆がいる。

 ヒロインは、その女性から、思いがけないモノを預かってしまう。それは祖父のもう1冊の日記。祖父は表裏の2冊の日記を書いていたのだ。軽井沢にあったのは建前の日記。エジプトで老婆が持っていたのは、本音の日記。

 そこで祖父はパリでスパイをしていたことを知る。大戦前夜、きな臭いヨーロッパ。そして、そこには、軽井沢の日記には書かれていなかった、この老婆と祖父の関係が書かれていた。

 彼女は若い娼婦。祖父は彼女をスパイ活動の連絡係として利用する。それが今、エジプトのアスワワンに住んでいる日記を持っていた老婆。

 ヒロインはこの老婆から日記のコピーを預かり、フランス語への翻訳を依頼される。そこで知る、本当の祖父の衝撃的な姿。

 相変わらずストーリー展開が早い。そしてドラマチック。それだけでなく、人間の哀しみの深さも描かれている。

 特に後半はこのドイツ系の若い娼婦の健気さに泣けてくる。思い浮かべたのは森鴎外「舞姫」のエリス。彼女は、この「オレンジ」の登場人物のような娼婦ではなけど、日本人を健気に愛す姿が重なった。

 若き祖父はこの娼婦を好きになるが、本命はジャム工場の令嬢。彼女との結婚の約束をして、彼女は子供を宿す。しかし、出産時に彼女は死亡。生まれた娘も死んだと知らされる。

 時間が経つと娘の死亡に疑念を抱く。しかし、それを証明する手立てはなかった。戦後になって調べても、娘が生きている証拠は見つからなかった。

 この小説のヒロインは戦前の世界の時間旅をしながら、そこに生きた女たちを通じて、自分を探す。この本を読み終わって、是非、フランスで映画化して欲しいと思った。

 できればドイツ系の娼婦だったレナーテの目線で。1920年代のパリが舞台なので、フランス映画として十分に成立する。監督はベトナム系フランス人のトラン・アン・ユンで。日本のパートが導入部分だけで、それ以外はフランス語だけでいい。不可能とは思うけど、読みながらフランス映画を思い浮かべていた。