ジャズを演奏する楽器奏者であっても、ジャズ・ヴォーカルは聞かなければいけないと、よく先輩から言われたものだ。「歌心」を身に付けるためには、ジャズ・ボーカルを聞く必要があるということだ。確かにジャズ・ヴォーカルのビブラートは、独特なものがある。僕が持っている「サラボーン/ミスティ  コレクション」は、サラ・ヴォーンが、マーキュリー・レコードに残した数多くの傑作アルバムの中からポピュラー曲、代表曲を12曲ほどピックアップして作られたものだ。「LULLABY OF BIRDLAND」、、「TEA FOR TWO」、「MY FUNNY VALENTINE」、「A LOVER’S CONCERTO」、ビートルズの「YESTERDAY」、「MISTY」、「STARDUST」などの曲が入っている。サラヴォーンの声は、少しハスキーであるが大変深みがある。また、低い声から、高い声までの音域が大変広い、どんなジャンルの曲であっても、豪快に歌い飛ばす並はずれた歌唱力の持ち主である。                                           


1970年大阪万博を記念した企画の一環として、ジョージ・セル指揮・クリーブランド管弦楽団が初来日した。「完璧主義者」のジョージ・セルによって鍛え上げられたクリーブランド管弦楽団は、当時全米トップの呼び声が高かった。公演の模様はNHKのテレビで放映された。僕も大きな期待を持ってテレビの前に座った。ジョージ・セルはあまり顔の表情を変えず、オーバーなアクションもなく、正確にテンポとアクセントを支持するというような指揮だったと記憶している。この放映で僕が初めて聞いた作品が、あの冒頭の哀愁を帯びたメロディーで有名な、モーツアル作曲「交響曲第四十番」と、シベリウス作曲「交響曲第二番」だった。オーケストラの演奏に関しては、ベートーベンの「英雄交響曲」の第三楽章のホルン三重奏で、首席ホルン奏者が、一番高い音が出しずらそうなのが少し気になったぐらいで、他は何の問題もなかった。ジョージ・セルは、僕に二つの大曲をプレゼントしてくれたのだ。                

高校生の時、リバイバル上映された「喜劇王」・チャップリンの「街の灯」を見て、すっかりチャップリンに魅せられてしまった僕は、続いて上映された「独裁者」も劇場で見た。そして、今度は友人をさそって、もう一度「独裁者」を見に行った。すると、友人が大変感動してくれて、彼は映画の帰りがけに、レコード店に寄って、チャップリンの何本かの名作映画から抜粋された「サウンド・トラック盤」のアルバムを買って帰った。「独裁者」は、チャップリンにとっては、初の「トーキー映画」だ。シェイクスピアを生んだイギリスで、五歳の時から病気の母親の代わりに舞台に立ち、その後も演劇を勉強した人だけあって、映画でのせりふ回しも、明朗闊達であった。またヒトラーを風刺したパントマイムは、「名人芸」というしかない。この映画で一番大笑いしたのは、ユダヤ人理髪師だったチャップリン(ヒンケルと一人二役)がラジオから流れてきた、ブラームスのハンガリー舞曲第五番をバックに、お客のひげをそるシーンだ。とにかく「独裁者」はチャップリンの芸の奥深さが、随所に見られる作品である。