どちらも正しい。「拝読します」と「拝読いたします」 | ほどよい敬語~「コミュニ敬語」でいこう

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「拝読いたします」が二重敬語ではない理由

拝読とは? 意味

●「拝読」の意味

「拝読」は「読むこと」の謙譲語です。

 

はいどく【拝読】

読むこと」の謙譲語。拝誦。

<例文>

お手紙拝読いたしました。

(『広辞苑 第七版』岩波書店)

 
上記のように、「拝読」とは、「読むこと」の謙譲語です。自分側をへりくだって、手紙や本など書いた相手や第三者を高める役割があります。

●「拝読」は謙譲語Iの特定形

「拝読」は、謙譲語Iの特定形にあたり、自分の行為について使います。
謙譲語には、謙譲語Iと謙譲語IIがあります。
 
謙譲語Iとは、「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べる」言葉です。
 
例えば、「お伺いする」であれば「伺う先の人」を立てて、自分側をへりくだる表現です。
「拝読する」の場合には、本など何らかの著述物を書いた相手を立てて、自分側をへりくだっていることになります。

「拝読します」の使い方〜どんな風に使える?

「拝読」という言葉自体がすでに謙譲語なので、「拝読します」だけでも謙譲の意味を表現できます。

 

謙譲語Iとは、「自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べる」言葉でしたね。

 

「拝読」の場合は

  • 「相手側又は第三者」→ 著述物を書いた人・著者・編集人・差出人である相手側や第三者
  • 「行為・ものごと」→ 「読む」ということ

だと理解できます。

 

すでに謙譲語なので、以下のように「拝読します」という使い方で、「行為が向かう先の人」(この場合は、著者)を立てることができます。

■著者本人から本を贈られた場合

<例文>

  • このたびは、ご著書をお贈りいただきありがとうございます。週末、楽しみに拝読します

■手紙を書いた差出人にメールで知らせる場合

<例文>

  • 丁寧なお手紙を拝読し、温かい気持ちになりました。
 

「拝読いたします」の使い方〜どんな風に使える?

「拝読いたします」という表現は、すでに謙譲語である「拝読」にさらに「いたす」という謙譲語と「ます」という丁寧語を重ねているため、二重敬語のように感じるかもしれません。

 

私もそう考えていた時期がありますが、実は二重敬語にはならないのです。

 

謙譲語Iの特定形である「拝読」は、以下リンク先で「謙譲語Iの語句を謙譲語IIと組み合わせることはできるか?」の段落に書いたように、謙譲語IIと合わせて使うことができるとされています。

 
「拝読いたします」の場合は
拝読(「読む」の謙譲語I)+いたす(「する」の謙譲語II)+ます(丁寧語)
という組み合わせであり、二重敬語には当たらないと考えられます。
 
「同じ謙譲語じゃないか」と思うかもしれませんが、 謙譲語I との謙譲語II は役割が違うので、
実際に使う場面を想定し、敬意の向かう先を具体的に検証してみましょう。
 

■上司から、社長の新刊を読むかどうかと聞かれた場合

この場合「拝読します」は著者である社長本人に直接言うなら十分な敬語です。
しかし、社長を共通の知人とする上司が聞き手の場合には、「拝読します」だけでは、その上司への敬意を表現していることにはならず、不十分なわけです。
そこで、上司への敬意を表すために「いたします」が必要です。
 
<例文>
  • 「はい。拝読いたします
 
この場合、「拝読いたします」を分解すると、敬意の向かう先は次のようになります。
 

「拝読」(謙譲語I)

→ 自分がへりくだることで「読む」という行為の向かう先、つまり「その本を書いた社長に対する敬意を示す。

 

「いたします」(謙譲語II+丁寧語)

→ 自分がへりくだることで、会話の相手である上司に対する敬意を示す

 
謙譲語Iの特定形については、「拝見する」「拝観する」など、ほかの言葉でも同様のことが言えると考えてよいでしょう。
 

文学など著述物での用例・使われ方

文学作品でも、両方の用例が見られます。

 

……歴史文学所載の貴文愉快に拝読いたしました。上田など小生一高時代
……中略……
 ...て、私、『もの思う葦』を毎月拝読いたし、厳格の修養の資とさせていた...
(出典:『虚構の春』 太宰治 著)
 
……和歌は心の鏡とか、そのお歌を拝読しただけで将軍家のあまりにも淡泊...
(出典:『右大臣実朝』 太宰治 著)
 
……鎌倉にて  お手紙うれしく拝読いたしました。半年ぶりで軽井沢から……
(出典:『「美しかれ、悲しかれ」 窪川稲子さんに』 堀辰雄  著)
 
……その友情は身にしみてありがたく拝読した。君が僕に対する切実な友情を...
(出典:『去年』 伊藤左千夫  著)
 
まとめ
  • 「拝読」は「読む」の謙譲語(謙譲語Iの特定形)。
  • 「拝読します」「拝読いたします」。いずれも正しい表現であり、場面に合わせて使える。著者本人に言うなら「拝読します」で十分。著者を共通の知人とする目上の人に言うなら「拝読いたします」が適切。

 

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