謙譲語Iの特定形とは | ほどよい敬語~「コミュニ敬語」でいこう

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謙譲語I の一般形と特定形

謙譲語Iには、一般形と特定形があります。

この記事では、一般形と特定形の違いについて述べつつ、特定形の使い方:用例について説明します。

 

特定形とは、次のような言葉のことで

・伺う(←訪ねる・尋ねる・聞く) 

・申し上げる(←言う)

・拝借する

「お(ご)……する」の一般形をとらない謙譲語Iのことです。

 

私も含め、多くの人が敬語を難しいと感じる理由として

・尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、美化語、丁寧語の5種類中がある

・謙譲語に謙譲語Iと謙譲語IIの2種類がある

が挙げられます。

 

特に、2つめの「謙譲語に謙譲語Iと謙譲語IIの2種類がある」ことで、面倒に感じるのではないでしょうか。

そこで、謙譲語Iの特定形について説明する前に、まず2つの違いを明らかにしておきましょう。

謙譲語 I と謙譲語IIの違いとは

謙譲語Iとは、「伺う・申し上げる」型と呼ばれ、次のように定義づけられます。

(枠内引用:文化庁「敬語の指針」より)

 

謙譲語I(「伺う・申し上げる」型)
自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を立てて述べるもの。  
 
<該当語例> 
伺う、申し上げる、お目に掛かる、差し上げる、 お届けする、御案内する、
(立てるべき人物への)お手紙、御説明
 
つまり、謙譲語Iとは、
・行為の主体は、自分側
・行為の向かう先は、相手側または第三者
・立てる相手は、行為が向かう先の人物
です。
 
謙譲語II(丁重語)「参る・申す」型) 

自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。 

 <該当語例> 

参る,申すいたすおる

拙著小社

 
つまり、謙譲語IIとは
・行為の主体は、自分側
・行為の向かう先には言及しない
・立てる相手は、聞き手や読み手
です。
 
上記のように、謙譲語には謙譲語Iと謙譲語IIがあります。

謙譲語I(「伺う・申し上げる」型)の特定形

前段の、謙譲語I(「伺う・申し上げる」型)の<該当語例> をご覧ください。

 

太字になっていない「お届けする」「ご案内する」などは

「お(ご)〜する」という形を取る「一般形」と呼ばれます。

【一般形の主な例】 

  • お(ご)......する
  • お(ご)......申し上げる
  • ......ていただく(例:読む→読んでいただく、指導する→指導していただく) 
  • お(ご)......いただく

 

謙譲語I(「伺う・申し上げる」型)の特定形

一方、謙譲語I(「伺う・申し上げる」型)のなかで、太字にした部分は特定形で、「お(ご)〜する」という形を取る必要のないものです。

 

・「伺う」は、「訪ねる・尋ねる・聞く)」の謙譲語i

・「申し上げるは、「言う」の謙譲語I

 

上記のような言葉は、「お〜する」の形を取らなくても、すでに謙譲の意味を含んでおり、「謙譲語Iの特定形」と呼ばれます。

 

他には、次のような言葉があります。(枠内引用:文化庁「敬語の指針」より)

 

【特定形の主な例】

  • 伺う(←訪ねる・尋ねる・聞く) 
  • 申し上げる(←言う) 
  • 存じ上げる(←知る)
  • 差し上げる(←上げる) 
  • 頂く(←もらう) 
  • お目に掛かる(←会う) 
  • お目に掛ける
  • 御覧に入れる(←見せる)
  • 拝見する(←見る)
  • 拝借する(←借りる)
 

​​なお、「存じ上げる」については以下の注釈があります。

(注) 「存じ上げる」は、「存じ上げている(います,おります)」の形で,「知っている」の謙譲語I として使う。

ただし、否定の場合は、「存じ上げていない(いません、おりません)」とともに、「存じ上げない」「存じ上げません」も使われる。 

 

なお、謙譲語 I の特定形である「拝見する」「拝借する」の他に、「拝○」を使ったものとして、次の言葉も挙げておきます。
以下の語句は、『広辞苑 第七版』で引くと、( )内の言葉の謙譲語であると示されています。
(注:「拝観」は「見る」の謙譲語とありますが、当記事では「拝見」と区別するために「観る」を当てます)
  • 拝聴する (←聴く)
  • 拝読する (←読む)
  • 拝観する (←観る)
  • 拝借する (←借りる)
  • 拝受する (←受ける)
  • 拝謁する (←高貴の人に面会する。まみえる)

謙譲語I 特定形を使う時の注意点

■謙譲語Iの特定形を謙譲語Iの一般形として変化させられるか?

以上のことからも分かるように、「拝見する」「お目に掛ける」などは、その言葉自体にすでに謙譲語Iとして成立しています。

 

そのため、謙譲語I の一般形を取ることは過剰です。

たとえば、次のように変化させることは、二重敬語だといえます。

 

× ご拝読する ← お(ご).....する

× ご拝読申し上げる ← お(ご)......申し上げる

× 拝読していただく ← .....ていただく

× ご拝読していただく ← .....ていただく

■謙譲語Iの語句を謙譲語IIと組み合わせることはできるか?

前段の用法とは異なり、「謙譲語II」とであれば、組み合わせが可能な場合もあります。
 
文化庁「敬語の指針」20ページには
【補足イ:謙譲語Iと謙譲語IIの両方の性質を併せ持つ敬語】として

「駅で先生をお待ちいたします。」の解説があります。

 
お待ちする ← 「待つ」の謙譲語I 一般形「お……する」
いたす ←「する」の謙譲語II
上記のように「お待ちする」+「いたす」の組み合わせであり、「謙譲語I」兼「謙譲語II」として認められています。
「お(ご)......いたす」は,「自分側から相手側又は第三者に向かう行為につ いて,その向かう先の人物を立てるとともに,話や文章の相手に対して丁重に述べる」 という働きを持つ,「謙譲語I」兼「謙譲語II」である。
 
同様の考え方から、「拝読いたします」という表現も
「自分側から相手側又は第三者に向かう行為について、その向かう先の人物を立てるとともに、話や文章の相手に対して丁重に述べる」 という働きを持つ、「謙譲語I」兼「謙譲語II」として使うことができます。
 
例えば会長が本を出版し、その本を読んだかどうかと上司に問われて
「会長の本を拝読いたしました」
と表現することができます。
 
「謙譲語I」兼「謙譲語II」として使っている、このケースでは
「拝読する」で、会長を立てて
「いたしました」で、上司を立てていることになります。
 
このような使い方の場合、「二重敬語で誤用である」とは言えません。
 
 

謙譲語I 特定形の使い方・用例

<例文>

 

・伺う(←訪ねる・尋ねる・聞く)  

ご案内いただきありがとうございます。ぜひとも、先生ご在廊の時間にお伺いしたいと存じます。

 

・申し上げる(←言う)  

僭越ながら、ご挨拶を申し上げます。

 

・存じ上げる(←知る) 

勉強不足でお恥ずかしいのですが、存じ上げませんでした。

 

・差し上げる(←上げる)  

よろしければ、ご招待状を差し上げますので、ぜひいらしてください。

 

・頂く(←もらう)  

ありがたく、頂きます。(この場合は、漢字が望ましい)

 

そのほかの特定形でも、文章を考えてみてくださいね。

  • お目に掛かる(←会う)  
  • お目に掛ける 
  • 御覧に入れる(←見せる) 
  • 拝見する(←見る) 
  • 拝借する(←借りる)

 

まとめ
  • 謙譲語Iとは、「相手側又は第三者に向かう行為・もの ごとなどについて,その向かう先を立てて述べる」敬語のことで、一般形と特定形がある。
  • 一般形とは、「お(ご)……する」など、元々の動詞を変化させる形をとるもの。
  • 特定形とは、「訪ねる→伺う」のように特定の語形をとるもの。

 

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