ブログやSNS、そして著書でも何度なく書いてきたことですが、敬語の正誤はその言葉だけで判断できないことはよくあります。
「その敬語は正しいか、盛りすぎていないか」を判断するとき、「誰が誰にどんな場面で話している(書いている)か」が鍵になるからです。
そこで今回は、敬語がなぜ、どんなときに必要とされているかを明らかにします。
敬語を使う理由は「相手を尊敬する気持ちを表せるから」が7割
令和6年度「国語に関する世論調査」のなかで、文化庁が「あなたは、今後とも敬語は必要だと思いますか」と尋ねたところ、
・「敬語が必要だと思う」
・「ある程度必要だと思う」
と答えた人は、全体の94.9%でした。
また、その人たちに「敬語が必要だと思うのはどのような理由からでしょうか」と尋ねたところ
・「相手を尊敬する気持ちを表せるから」を選択した人は、73.2%
・「表現がやわらかく、人間関係を円滑にすることができるから」を選択した人は、59.3%
・「相手と自分の立 場をはっきりとさせてけじめを付けることができるから」を選択した人は、 40.2%でした。
つまり、敬語は
・相手への敬意を表現したい
・人間関係を円滑にしたい
・立場をはっきりしてけじめをつけたい
ときに必要だと考えられていることが分かります。
かつて、敬語は、「上司と部下」「先生と生徒」のような上下のけじめをつけるために使われることが多かったはず。
しかし現在では、上司が部下に「お疲れ様」と述べる場面も多々あり、立場の違いだけとは言い切れなくなっています。
言葉の使い分けにはどのような要因があるのか、見ていきましょう。
待遇表現と言葉の使い分け
待遇表現には、まず相手を尊敬する気持ちを表す敬語や敬語的表現があります。
また、嫌悪や侮蔑を表す卑罵語も逆の意味で待遇表現です。
今回は、そもそも人はどんな理由でそれらの待遇表現を使い分けているのかについて考えてみます。
◆話題の人物を高める・主語を低めるため
・「召し上がる」「いらっしゃる」「なさる」「お/ご……になる」など尊敬語を使い、主語を上位者として高める
・「まいる」「いたす」など謙譲語を使い、(主に自分側)の主語を下位者として低める
高める相手は
・権限がある立場の人
・優位な立場の人
・恩恵を与える立場の人(見立ても含む)
・立てられるべき立場の人
・内外で言えば「外」の人
◆聞き手に対する丁寧さを表すため
・「来ます」「」など尊敬語を使い、主語を上位者として高める
・「まいる」「いたす」など謙譲語を使い、(主に自分側)の主語を下位者として低める
◆話し手の態度の改まり具合を表すため
・「わたくし・わたし・僕・俺」は、「改まり・ニュートラル・くだけた・粗野」
・「本日・今日」「先ほど・さっき」は「改まり・ニュートラル」
・「まいる」「いたす」など丁重語
*必ず使い分けるとは限らず、話し手のキャラクターにもよる
◆話し手の事態における恩恵の授受を表すため
・「友人が来てくれた」「友人が来た」との違いは恩恵の念があるかないか
・「先生に指導していただいた」「先生の指導を受けた」も同様
◆話し手の述べ方の品を表すため
・「花」を「お花」と表す美化語
・「ずらかる」は「逃げ去る」の卑俗な表現
*以前はニュートラルだった「食う」も最近では卑俗な印象になってきている
◆話題の人物や事態についての好悪を表すため
・滅多に使われないが「〜やがる」などの卑罵語は相手を罵ったりさげすんだりする悪い感情から
・「さっさとしろ」などの「さっさと」も悪い感情からくる
*以前はニュートラルだった「食う」も最近では卑俗な印象になってきている
参考:『敬語』(菊池康人著)
他にも、「親疎の表現」においても敬語が使われます。
敬語が使われる場面は、単に立場や地位の上下関係ではなくなってきています。
上司が部下に「お疲れさまです」と述べるのは、立場の上下ではなく、「聞き手に対する丁寧さ」を表しているといえます。
画一的な見方だけでは敬語の正誤やふさわしさを判断しにくくなっていることを知っておきましょう。
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