60歳を過ぎてからエレクトーンを習い始めた生徒に聞いてみた。

「エレクトーンを習いたいと思った理由は何ですか?」

すぐには答えてもらえなかった。入会する折に、ピアノも考えてみるように言ってみたが、エレクトーンを習いたいということだった。

好きになるのに理由は要らないという言い方をするときがある。しかし、なぜ、好きなのか知りたいと思った。

私がエレクトーンに魅力を感じる点は、美しい持続音が出ることが挙げられる。最近のエレクトーンの持つ音色は、私の好きな持続音だけでなく、この世にある楽器の音、自然の音、そして、この世に存在していない音、つまりイメージの世界の音まで「合成音」として作ることができる。そして、この音色は、本物の楽器と変わらないほどになっていた。目を閉じて聴いていると、オーケストラと変わらないほどの音の厚みもある。そういう意味では「夢の楽器」だと思う。

しかし、発表会で初めてエレクトーンの演奏を聴いた人が言った言葉、「何をしているのか解らなかった」、これは動いている指と出てくる音が必ずしも一致してないことを意味していた。リズムも音色のチェンジも自動で入り、時にはサポート演奏まで入っていることがある。進化したエレクトーンの機能は便利で楽しいが、使い方を間違えると誤解をまねいてしまうことがある。

ご飯を炊くのに、カマドに薪で炊きたい人がいるように、音楽の世界にも例えば電気を通さないものや、楽器そのものの音を出すことに苦労するような楽器がいいという人もいる。エレクトーンは誰が弾いても「ド」の音は「ド」で発音する。便利だからいいというものでもないのである。技術の発達とともに進化を続けてきたエレクトーンだったが、これからどうなっていくのか、どうなるのが良いのか、解らない。しかし、現在、音色や機能、演奏表現力においてこれだけの魅力がある楽器は他にないと思う。

 

60歳を過ぎてエレクトーンを習い始めた生徒に、今度は、「エレクトーンの魅力」について聞いてみた。いろいろな音が出て、一人で何でもできそうなこと、とにかく弾けると楽しいこと、などいろいろな話を聞くことができた。

そして、最後に、もう一度、エレクトーンを習いたいと思った理由を聞いてみた。申し訳なさそうに、「以前に、若い男の子の演奏を聴いてカッコよかったので・・・」という答えだった。




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 講師仲間とカラオケに行った。ニューミュージックや洋楽をさんざん歌って疲れた頃、講師の一人が演歌が歌えると言い出して「津軽海峡冬景色」を歌い始めた。この曲には、3連符が多い。大人のレッスンに使えるとひらめいた。


・サン・トワ・マミー

・アメージング・グレース

・翼をください

・オー・シャンゼリゼ

・津軽海峡冬景色

・心残り


 これらの曲をチェックして、次のレッスンのとき、生徒さんに簡易バージョンの楽譜を、見せて選んでもらった。偶然にも「津軽海峡冬景色」に決まった。

 この曲は右手のメロディーがなかなか難しい。3連符というのは指のトレーニングになる。おまけにテンポが速い曲である。途中から弾くことができずに歌いだしてしまった。(コードは私が押さえている)ゆっくりと練習すればいい。好きな曲で3連符のトレーニング、しばらく励んでもらうことになるだろう。この年代の生徒さんが3連符に初めて出会ったのは、おそらく『夏の思い出』の「~夢見て咲いている~」の「さいて」であると思われる。それは小学校の高学年か中学1年生の頃の音楽教科書に載っていた。それから50年以上経っている。生徒さんの頭の中には「3連符」という言葉は初めて聞く新しい言葉となっているようだ。


 60歳を過ぎた演歌のお好きな生徒さんの3連符の練習は、『津軽海峡冬景色』がいいようだ。どうか挫折しないよう、がんばってほしい。



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 最近やる気がでてきたAさん。テキストを変えたことが良かった。音楽が生き生きとしてきたし、何よりも弾いているときに楽しそうである。実は伸び悩んでいた。ここしばらく辛かったに違いない。弾けないから弾きたくない。それでも根性を出して弾こうとする。毎回、何ヶ所も同じところでつまずくのである。もちろん、レッスンのおりには、そこを取り出し、反復して一緒にトレーニングするのだが、家に戻るとできなくなるようだ。

 

 入会時に楽譜を読めるようになりたいという本人の希望があったので、テキストには「ヘ音記号」がついた3段楽譜を使っていた。音符にカタカナをふって、そのカタカナを見て弾いているようだった。いつか体が覚えて楽になるだろうと考えていた。しかし、そこを乗り越えることはなかなか困難だった。鍵盤楽器の経験がなく、60歳を越えてからの習い事である、苦しむのはやめようよ…と、もう一人の私がささやいていた。


 ある日のこと、「相談があります、テキストを変えたいのですが、どうでしょうか」と、コード付メロディ譜を目の前に置いた。1段楽譜である。伴奏はコードネームだけである。まず、復習で「C」と「G7」だけおさえてもらった。楽勝である。Aさんはニッコリして次の私の指示を待っている。「C」と「G7」で弾ける曲でメロディは少々難しいのを選んでみた。付点4分音符と8分音符、これが続くと正確にメロディのリズムがとれなくなる。付点がつくと意識が強くなり長すぎるのである。それでも「和音付け」で弾いているうちは何とか格好がついた。次に伴奏の形を変えた。もうアレンジの勉強になっている。何とか弾けている。次は「F」を使う曲が待っている。 ある時、STAGEAのレジストレーションメニューから音色を選んでみた。きちんと弾けるとリズムが使えるので楽しい。ご本人もご機嫌である。


 60歳からの初心者には「プログラム学習」が良い。少し努力すれば満点が取れるというプログラムである。そのうち、だんだんとハードルを高くしていく。テキストを購入してしまうと、それを終了したいということがある。本来、テキストはプログラム学習用に作られている。しかし時にはテキストの見直しも必要である。一人ひとりのプログラムが大切であるということは言うまでもない。



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 年に2回、発表会を開催している。中高年になってからエレクトーンを習い始めた生徒さんにも出演を勧めている。出演するか否かは、時間的にも経済的にも余裕がある場合、「気持ち」の問題だけとなってくる。そして、もう一つ「選曲」、これが大事である。


 何回か出演経験のある63歳の生徒さんが『千の風になって』を熱心に練習していた。良い仕上がりで、発表会に弾くことになった。とても熱心な生徒さんで、発表会が近づくと「靴」を持って練習にやってきた。レッスン場はスリッパに履き替えるので、エレクトーンの前で靴を履いて練習するのである。もう1曲『サバの女王』も仕上がっていて、どちらにするか迷っていた。私は『サバの女王』のアレンジが良かったこともあり、これがいいなとも考えていた。本人は「千の風が弾きたい」ということだった。しかし発表会の当日の朝に「めまい」が起こり、出演できなかった。彼女にとって、最後の発表会だった。

 その翌年の秋の終わりに、他県に引越しをされたのである。

 彼女は「おひとりさま」で、2階建ての大きな家に一人暮らしをされていた。大切な人がみんな天国に行ってしまったのである。15年前にご主人のお父様が亡くなり、10年前にご主人のお母様が亡くなられた。そして5年前にご主人が逝ってしまわれた。お子さんはいらっしゃらないご夫婦だった。寂しいのもあって、ピアノも、エレクトーンも良い機種のものを購入して、ピアノもエレクトーンも習っていた。

 今度は自分の「番」だといっておられた。天国にいく順番が5年ごとだというのである。

偶然にしても、世の中には、こんなことがあるのかと不思議に感じた。彼女は、その家には住みたくなかったのかも知れない。5年というギリギリのタイミングで引っ越しされたのであった。

60歳を過ぎての発表会の出演は、家族中で大変な応援があり、まるで、その人の人生が表現されるかのような雰囲気となる。間違えても止まってもかまわない。会場は暖かい声援、愛情に包まれる。

結局、彼女の強いメッセージが感じられた『千の風になって』は、発表会で弾くことはなかった。住んでおられた2階建ての大きな家も売りに出されているようだ。

引越し先では、もう落ち着いた様子で、新しい先生も見つかったと連絡があった。派手目の楽しい曲を弾いているのかな~。細く長く続けてくれることを願っている。きっと音楽を一生の友にしてくれるだろうと思う。



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 60歳を超えた生徒さんに「えれくとーんぎゃらりぃパレット」というテキストを使用している。明るい子供の曲が多く入っている。熟年の生徒さんには少々、物足りないかも知れない。とはいえ、まだハ長調とト長調の「Ⅰ、Ⅳ、Ⅴ、Ⅴ7」がやっとなので、大人っぽい曲を弾くには相当がんばらないことには無理がある。マイナー・コードもレッスンしてあるが、憶えるになかなか時間がかかる。


 あれこれと、いろいろ探した結果、曲はミュゼットの「パリの空の下」に決まった。『ベスト・メロディ165 』コード付メロディ譜があったので、それを使うことにした。彼は、そのコード付メロディ譜を拡大コピーにし、それを硬い紙に貼っていた。


 60歳を過ぎると、視力の低下は加齢とともに誰にでもあり、これは仕方がない。個人差があるとはいえ、体力低下も著しい。まず「歯」、「目」、「足」というふうに老化していくのが自分でも悲しいほど解る。

そして老化現象で、もう一つ、記憶力低下がある。若いときのように、中々おぼえられないのである。憶えてもすぐに忘れるのである。また「物忘れ」もある。以前に読んだ『老人力』や『鈍感力』という本は、そのへんを気にしないで生きていこうということが書かれてあった。


それらを踏まえ、指導者としては何回でも同じことを優しく言う、そして細く長く辛抱強く付き合っていくということが大切だと考えている。私自身、60代なので、そのへんのことは身をもって理解しているのである。



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