年に2回、発表会を開催している。中高年になってからエレクトーンを習い始めた生徒さんにも出演を勧めている。出演するか否かは、時間的にも経済的にも余裕がある場合、「気持ち」の問題だけとなってくる。そして、もう一つ「選曲」、これが大事である。


 何回か出演経験のある63歳の生徒さんが『千の風になって』を熱心に練習していた。良い仕上がりで、発表会に弾くことになった。とても熱心な生徒さんで、発表会が近づくと「靴」を持って練習にやってきた。レッスン場はスリッパに履き替えるので、エレクトーンの前で靴を履いて練習するのである。もう1曲『サバの女王』も仕上がっていて、どちらにするか迷っていた。私は『サバの女王』のアレンジが良かったこともあり、これがいいなとも考えていた。本人は「千の風が弾きたい」ということだった。しかし発表会の当日の朝に「めまい」が起こり、出演できなかった。彼女にとって、最後の発表会だった。

 その翌年の秋の終わりに、他県に引越しをされたのである。

 彼女は「おひとりさま」で、2階建ての大きな家に一人暮らしをされていた。大切な人がみんな天国に行ってしまったのである。15年前にご主人のお父様が亡くなり、10年前にご主人のお母様が亡くなられた。そして5年前にご主人が逝ってしまわれた。お子さんはいらっしゃらないご夫婦だった。寂しいのもあって、ピアノも、エレクトーンも良い機種のものを購入して、ピアノもエレクトーンも習っていた。

 今度は自分の「番」だといっておられた。天国にいく順番が5年ごとだというのである。

偶然にしても、世の中には、こんなことがあるのかと不思議に感じた。彼女は、その家には住みたくなかったのかも知れない。5年というギリギリのタイミングで引っ越しされたのであった。

60歳を過ぎての発表会の出演は、家族中で大変な応援があり、まるで、その人の人生が表現されるかのような雰囲気となる。間違えても止まってもかまわない。会場は暖かい声援、愛情に包まれる。

結局、彼女の強いメッセージが感じられた『千の風になって』は、発表会で弾くことはなかった。住んでおられた2階建ての大きな家も売りに出されているようだ。

引越し先では、もう落ち着いた様子で、新しい先生も見つかったと連絡があった。派手目の楽しい曲を弾いているのかな~。細く長く続けてくれることを願っている。きっと音楽を一生の友にしてくれるだろうと思う。



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