・ジェリー・ゴールドスミスの名曲のひとつに
「パピヨン」がある。
これは格別にイイ曲だ!



この映画音楽の名手は、いかにも映画的で
作品のイメージと品質にこだわったスコアを生み続けた。
ことドラマの情緒を掴み出すことにかけては、
天才的な才能を見せた。



「パットン大戦車軍団」の
フランクリン・J・シャフナー監督には
絶大な信頼を寄せられていて、
「パットン~」に続き、「パピヨン」でも御指名を受けた。



「パピヨン」は、
そもそも犯罪者が刑務所に入れられて、
そこから脱走しようという
現実的には言語道断な話なのだが、
映画の世界では、
これが英雄譚として光り輝くのだからおもしろい。



ここには、
スティーヴ・マックィーンとダスティン・ホフマンの
揺るぎない演技によるアウトローの生命力賛歌が
深い友情劇として刻み込まれている。




■Don Hanmer as “Butterfly trader”




●PAPILLON(1973・アメリカ=フランス)
監督:フランクリン・J・シャフナー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:ドルトン・トランボ ロレンゾ・センブルJr
音楽:ジェリー・ゴールドスミス♪







・「くたばるもんか!」



そうなのだ。
そうそう簡単にくたばっちゃならない
人間のギリギリの生命力が、こっぴどい環境を跳ね返し、
どこまで耐えられるものかを見せる映画である。



それゆえ
独房に何年も放りこまれた主人公パピヨン(マックィーン)の
腹奥で燃え立つこの執念の一語が突き刺さって来る。



殺人容疑で終身刑となり、14年間に8回も脱走を試みた
パピヨンという男も大概異常な人物だが、



この映画のもうひとつの主役は、拷問まがいの重労働を課し、
人権を喪失させてしまう南米フランス領ギアナの刑務所。



複雑な樹海に囲まれたジャングルにはマラリアが蔓延し、
いかにも湿度の高そうな環境は、正に最悪度数150%。



それに加えて、
囚人に与えられる食事のまずそうなことったらない。
これが我が身でなくてよかったと思えるくらいあれもこれも酷い。



見せしめに使われるフランス特有のギロチン台が
刑務所のど真ん中にデンと設置されている。
これもいやらしさと忌々しき威嚇のシンボルとして、
囚人たちの背筋に冷たいものを走らせる。


■Don Gordon


■Woodrow Parfrey

冒頭で、
フランス本土の刑務所からギアナ送りにされる囚人たちに
所長が言い放つ。
「祖国フランスはお前らを見捨てた!フランスを忘れよ!」



国を捨て、自分を捨てて、
異郷の果てでくたばれと宣言されたようなものだ。



罪状はどうであれ、罪を糾弾し、
生殺し状態で虫けら扱いにして追い込む時の人間の冷淡さは、
実は、
ルールの中でしか生きられない人間の矮小さを感じさせる。



シャフナー監督は、そんな人にして人に非ずの行為の中で、
ギアナ行きの船で知り合った、偽札作りの名人ルイ・ドガ
(ダスティン・ホフマン)とパピヨンの仁義を貫く友情を
殊更丁寧に描き込んでいる。



男の友情にも、薄っぺらいのと分厚いのがあるのだ。
パピヨンとドガの男同士の友情は、
薄っぺらそうに見えて、実は分厚い。



何度見ても、悪魔島の断崖の上で年老いたパピヨンとドガが
抱擁するシーンには胸が熱くなり、グラリとくる…。



胸に蝶々のタトゥーを刻んでいることから
パピヨンと呼ばれた男、
原作者アンリ・シャリエールの自伝の映画化である。






果たして物語のどこまでが、真実かは知れないが、
他人には到底想像すらつかないような生死の極限を
何度も味わった男であることは間違いない。



あらゆる囚人や、闇でうごめく人物たちの存在感、
そして展開する密度の濃いドラマには、
飽食ボケした脳天直撃の、ズシンと響く重量がある。






★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。





























・大戦車軍団という邦題の尾ひれは、
この作品においては、ほぼどうでもよくて、



「私には戦争よりも平和の方が地獄だ」
と言い放つ完全なる好戦主義軍人の
荒々しい人生観を追い掛けた堂々たる人間ドラマ。



それは、実話に基づく歴史劇でもあり、
狂気の沙汰をもてあそぶ人間喜劇でもある。



そして、
本作でのアカデミー主演男優賞受賞を拒否した
ジョージ・C・スコットという
アメリカを代表する反権威主義者の名を、
決定的なものにした見事な秀作である。








●Patton(1970・アメリカ)
監督:フランクリン・J・シャフナー

脚本:フランシス・フォード・コッポラ
   エドモンド・H・ノース
音楽:ジェリー・ゴールドスミス♪





・人間には嫉妬心がある。



根拠なき自信や思い込みもある。

思い上がりもあれば、愚行もする。



そして、
見栄を張って突っ張らかったりしながらも、
可愛いほど素直だったりもする。



この映画は、勇猛果敢な歴戦の雄の
強さと弱さ、喜怒哀楽をまんべんなく見せる。



米戦車の名称にも名を残す陸軍大将ジョージ・S・パットン。

大胆不敵な野戦指揮官として、兵士たちに恐れられ、
戦地で恐怖心を抱く兵士らの性根を叩き直すという
肝っ玉の据わった伝説の軍人である。



罵詈雑言と暴言舌禍の嵐で、軍本部との対立も絶えず、
アイゼンハワー大統領にも叱責を受けるほど、
政治的な立場そっちのけで、敵国を叩くことに人生を
賭けていた。





制裁としての降格などどうでもよかった。
それでもひたすら戦場を愛し、共に闘う部下を愛したのは、
祖国愛にあふれた根っからの兵隊だったからに違いない。



映画の中では“時代錯誤”とも評される。
ガリア戦記が愛読書であり、
自分をアレキサンダー大王に見立てているらしき、
まさしく時代遅れの誇大妄想家でもあった。



こんな、今の時代では見掛けないタイプの
恫喝と叱咤激励を渾然一体化させた剛直オヤジが主人公。



娯楽仕立てでもなければ、戦争の駆け引きを見せるでもない。
戦場はこの偏屈オヤジにとっては華のステージであり、
移りゆく背景でしかない。



そんな戦争好きのオッサンに興味を感じなければ、
面白くも何ともない映画だろう。





ところが、である。
このオッサンに、名優ジョージ・C・スコットが
強烈なキャラクターとして轟々たる魂を吹き込んだ。



凄まじい執念に満ちた迫真の演技力、
その入り込み具合は尋常ではない。
俳優が登場人物に同化して、完全燃焼する瞬間を見せる。



戦争や第二次大戦のことなど知らずとも、
パットンという人間に魅かれる作品なのだ。



生涯の友人としてパットンと同時代を生きた
ブラッドレー大将役の名優カール・マルデンの存在感も
印象的だ。



戦場を奔走した戦争請負人のオッサンそのものを
描いた戦争映画として、こんなユニークな作品はない。



新進気鋭の頃のコッポラの脚本、
監督は大作での安定感と余裕の演出が魅力の大御所
フランクリン・J・シャフナー。
映画の完成度は、今さらとやかく言うに及ばず。



冒頭で流れるジェリー・ゴールドスミスによる主題曲の
意表を突いた軽妙なメロディが、
どこか滑稽にも見える不器用な軍人の生き様を
心地よい響きで迎え入れる…。






★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。



























・「フュ―リー」がヘビー級だったせいか
暫しインターバルという名のサボりを敢行しておりました。
ハロウィン



さて、戦車が登場する映画で
インパクトの強かった名もなき埋もれた1本が
「レッド・アフガン」。

もちろん未公開作。



アメリカ映画でありながら、
80年代、旧ソ連のアフガニスタン侵攻を舞台にしている。

アフガニスタン地域紛争は、宗教絡みなのでややこしい。



ザッと歴史背景を見ると、東西冷戦以後、
王制アフガニスタンが崩壊し、極端な社会主義政権が誕生。



当然の如く、イスラム伝統を守る者たちとの間で内戦が勃発して、
どうしたもんだか社会主義政権に肩入れするソ連が武力参戦。



イスラムのいわゆる聖戦=ジハードに、
近隣国の武装したイスラム教徒らが次々参戦して、
軍隊を擁するソ連と激戦を繰り広げる事態となった。



ペレストロイカによるソ連軍撤収後、
アフガニスタンはイスラム教徒数派の合同政権を作り上げたが、
ご存じのように再び内戦を繰り返した末に過激なタリバン政権が誕生。

以降は、9.11テロから一気にタリバン崩壊へと歴史は動く。



この作品は
ソ連軍がアフガン侵攻して、
不穏な空気がたちこめていた当時の物語。
アメリカの視点で描く異国アフガニスタン紛争の姿態ながら、
ひとつの人間ドラマとしての完成度は高い。







●THE BEAST OF WAR(1988・アメリカ)
監督:ケヴィン・レイノルズ
原作・脚本:ウィリアム・マストロシモン
音楽:マーク・アイシャム♪






・何が起こったのか!と思わせるくらいの
大殺戮がおっ始まる。

唐突にアフガニスタンの静かな谷間の集落が、
ソ連戦車隊の激しい襲撃によって破壊される開巻。



砲撃による威嚇ではなく、完全なる攻撃。



動くものは無差別に射殺され、
小さな家屋は火炎放射気で焼き払われる。
井戸に毒薬を放りこみ、猛爆に動物も巻き添えを食う。



そして、戦車に向かって投石で抵抗する女たち…

いきなり激しい!こんなに残酷な展開でいいのか?
この冒頭から一気に叩きつけてくる破壊の絵姿は強烈。



思えば、これは旧ソ連軍の暴挙の絵姿である。
アメリカ軍の所業ではないので、その卑劣な殺戮の見せ方には
ある意味遠慮が無い。



ハリウッド映画ならではのロシアに対する牽制球でもあり、
そこには、製作当時の時勢を思わせるシニカルな匂いが漂う。



そんな虐殺を決行した戦車隊の中の1台が道に迷い、
戦車兵5人が援護なく孤立したまま、
復讐の追跡を仕掛けてくるアフガン戦士たちと
荒々しい攻防を繰り返す復讐戦記である。



復讐だから、執念深い怨念が込められている。
よって起因となる出来事も終結に至る後味も悪い。



どっちがとか、誰がとか、行為そのものには
実際のところ良いも悪いも無い。
幾多の命が放って置かれた戦場には嘆きと苦痛のみが残される。




人物の描き込みは力強い。



自らを戦車小僧と称し、
スターリングラードをナチスから守るため
8歳の頃から戦闘に参加していたと言う戦車隊長
(ジョージ・ズンザ)が何しろ強烈。



倫理観だけで見ると、一見悪辣な人物に見えてしまうが、
戦士としては冷静な判断力と高い戦意を保持しており
極めて優秀。
攻撃が最大の防御であることを熟知している。
「フュ―リー」のブラッド・ピットに被る存在感。



隊長の非情なやり口に対立する操縦士が
「ジェロニモ」のジェイソン・パトリック、
あの「エクソシスト」のジェーソン・ミラーの息子で、
若い頃から演技派ながらも、マスクの甘さが
今ひとつ印象に残りにくいのが玉に傷。
むしろジュリア・ロバーツらとの浮名の方が有名。



アフガン戦士の首長を演じているのは
「スカーフェイス」でアル・パチーノの相棒で
華々しいデビューを飾ったスティーヴン・バウアー。
キャリアは長いが、これといった決定打のない人。



…といった多国籍の人物を演じる俳優陣は、
いかにも地味目。
ヒットには無縁の、隠れた名作一直線も致し方なし。



原作は、脚本も書いたマストロシモンの戯曲だという。

果たして舞台では、
どのようにソ連が誇るT-55戦車を見せたのか興味深いが、
人間同士の葛藤がガッチリ組まれているのは舞台の呼吸。
これにも気付かせないほど、映画的な展開と映像が見事、
映画ゆえの惨殺シーンのコッテリ度数も高い。



ケヴィン・レイノルズ監督は
大作だと途端にまだるっこい演出に変貌するが、
このあたりのコンパクトな小品になると俄然切れ味が
冴えわたる。
特にエキゾチックで哀切なメロディを背景に映し出される
オープニングは素晴らしい。



「BEAST=野獣」というタイトルは
シンプルながらも、ある意味見事なタイトルだと
観終えた後、何とも納得。




戦車隊長が口にする

「弾薬尽きれば自ら盾となれ、
 時尽きれば英雄となれ」

という覚悟を意味する兵士としての一語は重い。
しかし、
それは今の時代に向けて吐くにはあまりにも空しい。



これは、見落とすなかれのパンチ力のある1本!
強く推挙しておきたい。



★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。



























・アメリカ映画で見慣れた
コンパクトなM4A3シャーマン戦車と
ナチスの重量感と威厳を示すタイガーⅠ型の
かつて見たことのない近距離バトルに、
兵器好きの方は狂喜するはずだ。



ところが、
これは今風の安っぽいヒロイズムのような
都合のよい甘味にまみれたアレンジなど一切なし。



グロテスクとも言うべき、
死体の山が築かれていく容赦ない描写の連続には、
思わず顔を背けたくなる。



同じく陸地戦の恐怖とリアリティを、
ガンガン叩きつけてきた「プライベート・ライアン」を
思い浮かべてしまうが、



「プライベート~」が、
政府ミッションを遂行する歩兵小隊だったのに対し、
こちらは敵地占領専門の戦車中隊。

いささかがさつで、荒っぽい集団である。



戦車が主役となる戦争映画は近年見かけないが、
1台の戦車の息遣いをも感じる傷だらけの戦闘が
手厳しいタッチで繰り広げられる…。



これは文字通り、
激しい怒りが過熱する様を描く衝撃の1本。








●FURY(2014・アメリカ)
監督:デヴィッド・エアー
脚本:デヴィッド・エアー
音楽:スティーヴン・プライス♪






・突き出た主砲に白いペンキで書かれた“FURY”の文字。
前部に括りつけられたドイツ軍のヘルメット。



戦地を次から次へと渡り歩く
1台の傷だらけのシャーマン戦車は、
兵士たちの疲弊をよそに、
全く疲れを知らないように見える…。



敵に対して引き金を引き続けることでしか
身の証しを立てられないその銃弾群の嵐は、
敵も味方も関係なく、
重い叫びとなって幾多の命に突き刺さっていく。



砲火と弾丸の飛び交う戦場で、
不毛を疑う事を許されない最前線の兵士たち。



今さら、平和を声高に叫ぶことがどのような意味を持つのか?

しかし、この映画はあえて死線の苦悶をさらけだして、
人のあるべき姿を垣間見せた。



久々の第二次大戦映画「フュ―リー」は、
そんな醜態と苦痛を露呈することで、
2つの重要な存在感を示した。



ひとつは、
無理・無情・無益の中でも
人間は前進を続けねばならない宿命にあること、



もうひとつは、
戦争に、本来英雄など存在しないこと。




戦車のハッチ部分から身を乗り出し
敵の潜伏場所、攻撃方向を特定して
インカムで砲撃の指揮を執る戦車長の手足となり、
操縦士、砲撃手、装填手が動く一心同体の
アタックシーンには大いに高揚させられる。



キャストも絶妙だ。
“War Daddy”と仇名される
ブラッド・ピットと共に5名の戦車兵を演じる
俳優陣が渾身の演技を見せる。



戦車内の閉塞感と尽きない緊張を
執拗なまでに見せつけるデヴィッド・エアー監督の
手腕も並大抵ではない。




終幕で、一人のドイツ兵士が見せる行為に
言葉に出来ない全てが集約されている。



観る者に深い傷みを分かつ力量溢れる秀作として
長く記憶される作品となるだろう。







★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。































・映画は永遠のものと信じるあまり

実のところ追悼記事が苦手で、

滅多に文字にはしませんが、

こんなにも人生において

何度も襟を正させてくれた人はいません。


そんな映画の力と

せめて男として生まれたならば、

男が持つべき

心の芯があることを教えてくれた

高倉健という偉大な俳優の力に

月並みですが、

衷心からひと言、


ありがとうございました!











高倉健
★★★★★★★★★★

採点基準:…今日だけ10個が最高位でマーキングしています。