・大戦車軍団という邦題の尾ひれは、
この作品においては、ほぼどうでもよくて、



「私には戦争よりも平和の方が地獄だ」
と言い放つ完全なる好戦主義軍人の
荒々しい人生観を追い掛けた堂々たる人間ドラマ。



それは、実話に基づく歴史劇でもあり、
狂気の沙汰をもてあそぶ人間喜劇でもある。



そして、
本作でのアカデミー主演男優賞受賞を拒否した
ジョージ・C・スコットという
アメリカを代表する反権威主義者の名を、
決定的なものにした見事な秀作である。








●Patton(1970・アメリカ)
監督:フランクリン・J・シャフナー

脚本:フランシス・フォード・コッポラ
   エドモンド・H・ノース
音楽:ジェリー・ゴールドスミス♪





・人間には嫉妬心がある。



根拠なき自信や思い込みもある。

思い上がりもあれば、愚行もする。



そして、
見栄を張って突っ張らかったりしながらも、
可愛いほど素直だったりもする。



この映画は、勇猛果敢な歴戦の雄の
強さと弱さ、喜怒哀楽をまんべんなく見せる。



米戦車の名称にも名を残す陸軍大将ジョージ・S・パットン。

大胆不敵な野戦指揮官として、兵士たちに恐れられ、
戦地で恐怖心を抱く兵士らの性根を叩き直すという
肝っ玉の据わった伝説の軍人である。



罵詈雑言と暴言舌禍の嵐で、軍本部との対立も絶えず、
アイゼンハワー大統領にも叱責を受けるほど、
政治的な立場そっちのけで、敵国を叩くことに人生を
賭けていた。





制裁としての降格などどうでもよかった。
それでもひたすら戦場を愛し、共に闘う部下を愛したのは、
祖国愛にあふれた根っからの兵隊だったからに違いない。



映画の中では“時代錯誤”とも評される。
ガリア戦記が愛読書であり、
自分をアレキサンダー大王に見立てているらしき、
まさしく時代遅れの誇大妄想家でもあった。



こんな、今の時代では見掛けないタイプの
恫喝と叱咤激励を渾然一体化させた剛直オヤジが主人公。



娯楽仕立てでもなければ、戦争の駆け引きを見せるでもない。
戦場はこの偏屈オヤジにとっては華のステージであり、
移りゆく背景でしかない。



そんな戦争好きのオッサンに興味を感じなければ、
面白くも何ともない映画だろう。





ところが、である。
このオッサンに、名優ジョージ・C・スコットが
強烈なキャラクターとして轟々たる魂を吹き込んだ。



凄まじい執念に満ちた迫真の演技力、
その入り込み具合は尋常ではない。
俳優が登場人物に同化して、完全燃焼する瞬間を見せる。



戦争や第二次大戦のことなど知らずとも、
パットンという人間に魅かれる作品なのだ。



生涯の友人としてパットンと同時代を生きた
ブラッドレー大将役の名優カール・マルデンの存在感も
印象的だ。



戦場を奔走した戦争請負人のオッサンそのものを
描いた戦争映画として、こんなユニークな作品はない。



新進気鋭の頃のコッポラの脚本、
監督は大作での安定感と余裕の演出が魅力の大御所
フランクリン・J・シャフナー。
映画の完成度は、今さらとやかく言うに及ばず。



冒頭で流れるジェリー・ゴールドスミスによる主題曲の
意表を突いた軽妙なメロディが、
どこか滑稽にも見える不器用な軍人の生き様を
心地よい響きで迎え入れる…。






★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。