・アメリカ映画で見慣れた
コンパクトなM4A3シャーマン戦車と
ナチスの重量感と威厳を示すタイガーⅠ型の
かつて見たことのない近距離バトルに、
兵器好きの方は狂喜するはずだ。



ところが、
これは今風の安っぽいヒロイズムのような
都合のよい甘味にまみれたアレンジなど一切なし。



グロテスクとも言うべき、
死体の山が築かれていく容赦ない描写の連続には、
思わず顔を背けたくなる。



同じく陸地戦の恐怖とリアリティを、
ガンガン叩きつけてきた「プライベート・ライアン」を
思い浮かべてしまうが、



「プライベート~」が、
政府ミッションを遂行する歩兵小隊だったのに対し、
こちらは敵地占領専門の戦車中隊。

いささかがさつで、荒っぽい集団である。



戦車が主役となる戦争映画は近年見かけないが、
1台の戦車の息遣いをも感じる傷だらけの戦闘が
手厳しいタッチで繰り広げられる…。



これは文字通り、
激しい怒りが過熱する様を描く衝撃の1本。








●FURY(2014・アメリカ)
監督:デヴィッド・エアー
脚本:デヴィッド・エアー
音楽:スティーヴン・プライス♪






・突き出た主砲に白いペンキで書かれた“FURY”の文字。
前部に括りつけられたドイツ軍のヘルメット。



戦地を次から次へと渡り歩く
1台の傷だらけのシャーマン戦車は、
兵士たちの疲弊をよそに、
全く疲れを知らないように見える…。



敵に対して引き金を引き続けることでしか
身の証しを立てられないその銃弾群の嵐は、
敵も味方も関係なく、
重い叫びとなって幾多の命に突き刺さっていく。



砲火と弾丸の飛び交う戦場で、
不毛を疑う事を許されない最前線の兵士たち。



今さら、平和を声高に叫ぶことがどのような意味を持つのか?

しかし、この映画はあえて死線の苦悶をさらけだして、
人のあるべき姿を垣間見せた。



久々の第二次大戦映画「フュ―リー」は、
そんな醜態と苦痛を露呈することで、
2つの重要な存在感を示した。



ひとつは、
無理・無情・無益の中でも
人間は前進を続けねばならない宿命にあること、



もうひとつは、
戦争に、本来英雄など存在しないこと。




戦車のハッチ部分から身を乗り出し
敵の潜伏場所、攻撃方向を特定して
インカムで砲撃の指揮を執る戦車長の手足となり、
操縦士、砲撃手、装填手が動く一心同体の
アタックシーンには大いに高揚させられる。



キャストも絶妙だ。
“War Daddy”と仇名される
ブラッド・ピットと共に5名の戦車兵を演じる
俳優陣が渾身の演技を見せる。



戦車内の閉塞感と尽きない緊張を
執拗なまでに見せつけるデヴィッド・エアー監督の
手腕も並大抵ではない。




終幕で、一人のドイツ兵士が見せる行為に
言葉に出来ない全てが集約されている。



観る者に深い傷みを分かつ力量溢れる秀作として
長く記憶される作品となるだろう。







★★★★

採点基準:…5個が最高位でマーキングしています。…はの1/2です。