A氏は私のことではない。
A氏は悩んでいる。
A氏はお人よしだ。
損得抜きで頼まれごとに応えるタチだ。
「世間はは持ちつ持たれつである」
A氏はそんな、やさしい江戸っ子気質を持っている。
A氏の仕事は、営業や宣伝だ。
人と人を繋いだりすることも多い立場だ。
このA氏が悩んでいる。
俺は間違っているのか?と。
例えば
何かに困っている知人Bを、
A氏の人脈の中で、また別の知人Cに紹介してあげる。
また例えば
はA氏が代理でC氏に対し、B氏の頼みごとをしてやる。
A氏は今まで、こういうことやってきた。
それで今まで上手くいってきた。
しかし最近、A氏は
C氏の立場にあたる人間から無視されるようになった。
音信不通、または、無反応の対応をされるようになったという。
原因はすでに音信不通なので、正確にわからない。
C氏は「腹を割って何か言う」ことさえ拒んでいるわけだ。
C氏への頼み事の結末に何の実りもなかったから?
B氏がろくでもない人物でC氏が迷惑を被ったから?
とにかくA氏ごと関わりを拒絶されてしまった。
こういうケースが増えているという。
A氏はここ数年、大きな会社から独立したフリーの立場だ。
私は思った。
人情や親切には
「天然モノ」と「養殖モノ」があるに違いない。
養殖人情は、目的をもって人情を使う。
人情は強力な篭絡の道具になる。
実のならない草にはいちいち水をやらない。
誰からも相手にされなくなったB氏(私も知ってる)が
「最後まで僕を気にかけてくれたのはAさんだけです」
と残し、田舎へ引っ越していった。
A氏の頭には人間世界のフラットな真実が広がりはじめている。
私にもそれが広がった。