公認心理師 過去問研究[1117] 第7回悉皆検討〈90〉知覚狭小化 認知/発達心理 | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

第七回公認心理師国家試験問題(2024年3月3日実施)

問90    知覚狭小化(perceptual narrowing)の例として、生後 6 か月児は、 ヒトもサルも個体間の顔の弁別ができるものの、その後、発達の過程 で、サル個体間の顔の弁別能力が衰退していくことが挙げられる。   
このことの解釈として、最も適切なものを 1 つ選べ。 

1)  生後6か月以降に、視力が低下する。
2)  顔の認知処理は、高い領域固有性を示す。
3)  生後6か月児は、ヒトよりもサルの顔を選好する。
4)  顔の全体処理の傾向は、発達が進むにつれて弱まる。
5)  生活環境内での知覚経験により、認知機能が調整される。 

 

 

解は、5

認知心理学において、研究途上であろうか(たぶん...)と思われる課題の出題。

諸般の事情で二ヶ月ほど予約投稿を休んでいましたので、ウォーミングアップを兼ねて、

久々に選択肢決定に至る推論の経緯を執拗に詳しく書いてみます。

なんだか、この問題、既視感があるのは、気のせいかな…


以下は、お時間のある方に、ご笑覧いただければ幸いです。


①設問文の読解
「生後6ヶ月のヒトの乳児は、同じ種であるヒトと異なった種であるサル[…は、monkeyでありape(類人猿)ではない]の一個体ごとに顔の違いが分かるという能力を先天的に持っているが、その後発達が進むに従って、同じ種であるヒトの顔なら個体間の弁別はできるが、異なる種であるサルの個体ごとの顔の弁別能力が衰退していく(サルはみんな同じ顔に見える)という例が、「知覚狭小化」の例として挙げられている。」
とこの設問文を読み解くことが、第一段階。


②そこで、ふと湧き起こる疑義

…この第一段階(前提)についてさえ、一般常識..ていうか生活体験に照らしても、正直にゃんには、眉唾だと感じられた。サルの顔を人間の幼児が日常で見分ける必要に迫られる機会はあまりないだろう。....ヒトであれサルであれ、顔(面立ち?)のみで個体を識別できる力が最初期にはあったが、少なくとも乳児期での発達の時期には成長に日々とともにその能力が衰退していく、ことを実験的に計測したというのであろうが、その結論に至るまでの手続きには信頼性・妥当性が真に確保されていたのだろうか....と先日、實川理事の例会での講演の後だったので、ことさらに気になってきた。

③引き続き湧き起こる妄想の拡大

もしそうならば、疑義を覚えざるを得ない。生涯発達という視座から、将来何らかの生活様式の影響で、再びサルの顔も識別できるようになる可能性もあるはずだ。たとえば、第三者からは、うちの飼い猫とそっくりに見える猫とうちの猫とが同一個体のものか否かが弁別できなくても、恐らくわたくしには弁別が可能であろうと思われる…。

殊に、弁別する対象の「顔」とは実物との対面であったのか、あるいは動画もしくは写真であったのか、実験結果は大きく異なるはずだ。....という思いをはじめさまざまな疑問が、この短い設問文を一覧するだけで、一気に沸き起こってくる。重要な交絡因子が大胆かつ無神経に無視されているのではないかとも思われてくる。


しかし、蓋然性が高い推測をするならば、もっと実験は明確な結果を出すという目的のためだけに、単純化されているはずだ….

 

そして、やはり、気になるのは、乳児が「(種の異同に関わらず)他者」の顔を弁別できているかどうかを、測定した手続きの妥当性...。認知心理学や比較心理学の分野ではもしかしたら「常識」水準の著名実験である気配は感じるものの、やはり、この出題のメタ的な意図は、なんやねん、古典的認知心理学の知識が公認心理師に必須と強要されているようで、モヤモヤしてくる。

 

④あああ、とふと我にかえり、いまここでの現実に直面する これ、極めて重要!!

罠にハマるところだった(いや既にタイムロスという取り返しがつかない罠にハマっていた)

しかしながら、いまさら愚痴ってしかたないことながら😹、問90は、このプロトコルをあくまでも是…前提として、回答しなければならないのだ。⇦やっとスタートラインに立てた!!

⑤とりあえず必要なのは、ジャーゴンの解釈や~~~
「知覚狭小化(perceptual narrowing)」・「領域固有性」・「顔認知の全体処理」の認知心理学で用いられるジャーゴンの語義を想起すると同時に、選択肢文中に省略されている語を補いつつ考察することが求められる …が、ほとんどの受験者は、一般常識水準での類推のみでも2)か5)かまでは絞れる。1)・3) ・4)は早い段階で排除されるだろう。ただ、なぜ3)のように不合理むしろ不条理な選択肢文がここに入っているのかとの違和感が残る。

 

⑥またまた妄想への没入…巧妙なトラップ!?
これについてヒントとなるのは、生後6ヶ月のヒトが親しく(顔)馴染んでいた(身近に一緒に交流…遊んでいた?)サルに固有名をつけていた(固有名詞…言語的知覚要素を付与しておく)なら、3ヶ月後に9ヶ月児の認知能力を測定したとき、当該サルの顔(の実物との対面ではないのではないか、というのは、そのサルの個体もまた成長?しているので…おそらくは、記録動画や写真を用いているのではないかと考えられる)を他のサルの顔と弁別する能力が保たれているかどうかを検証する…といった別の研究(最下記リンク内の記述を参照)へと展開した事情が自ずと踏まえられたのではないだろうか。

⑦気を取り直し、国語力に縋ることにする    これがじつは最重要だったかも....
選択肢2つまで、コモンセンスあるいは国語(文法)力で絞れた。
あとは、「領域固有性 {domain specificity}」の定義・概念が直ちに浮かぶか否かで、短時間での「正解」到達が可能となるはずなのだが…、さて、「領域固有性」聞き覚えはたしかにあるが、なんだったけ…

 

⑧選択肢文もわかりにくいので、言葉を足してみよう

 

1)  生後6か月以降に、乳児/ヒトは視力が低下する。
2)  乳児/ヒトの顔の認知処理は、高い領域固有性を示す。
3)  ヒトの生後6か月児は、同じ種[species]であるヒトの顔よりもサルの顔を選好する。

   ☜弁別/識別の認知能力と選好(好み)による価値判断とが、同次元に置かれての誤謬。
4)  乳児/ヒトの/ 表情認知の全体処理の傾向は、発達が進むにつれて弱まる。
5)  乳児/ヒトは、生活環境内での知覚経験により、認知機能が調整される。


⑨乳幼児の発達に関わる仮説で、そうや、ピアジェや!!  思い出せて、まあ…ラッキー
領域固有性[domain specificity] :同じ発達段階にある子どもでも、できることは領域(或る能力が発達することの必要に迫られた継続的な状況や生活環境など)によって違うというピアジェに代表される領域一般性に対置される概念やと思いだした!!…ん?!それで大丈夫!?…かな。


⑩ しかし、読解段階での混迷からの脱出はまだ遠い…かも
…とすれば、2)の選択肢文が言いたいことは、乳児が他者の顔を認知する処理能力は、外的要因や乳児が置かれている環境によって個体差が大きい、と解するとよいのだろうか。確かに、不可避的母性剥奪とか虐待が生じるような環境下と標準的また良好な養育環境では、異なりがある可能性が考えられる。しかし、この問題の交絡因子としては、これらが、この結果を導いた実験手続きには設定(されると倫理的に大変な問題である)されていないはずや…。

⑪ ふたたび、我に帰り、コモンセンスに頼る…
…まあ、この2)を深追いしなくても、2)か5)かの択一までもってくれば、これもコモンセンスに準えて、文として2)よりも、文意がより明解に趣旨が綴られている5)の方を選ぶことやな。これが常識に基づいた次善の選択やな。こんな場合、見直しはせんほうがええ。

 

とまあ、以上の作業を、点数配分からは、できれば1分から長くても2分以内に適切に終えて、[正答]するのが求められているんやにゃ~~~~😹

 

得られたかもしれない教訓:

落ち着いて取り組めば、国語力と常識に基づく推理力で解けるから、ジャーゴン(テクニカルタームとも言うが)に脅かされないこと。

 

知覚狭小化[perceptual narrowing] 

 

 

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