ブックレビュー箱庭特集⑯東山紘久『箱庭療法の世界』 誠信書房,1994 | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

「私は自分の読み筋をスーパーヴァイザーに何度となく話、聞いてもらおうとしたが、反発されても理解はされなかった。そのときに河合隼雄先生がスイスから帰ってこられた。私が何時間もかけて説明してもわかってもらえなかったことを先生は3分でわかられ、そのうえ私が予想もできなかった深い読みを教えてくださった。それまで、これほど私の実践が理解されたことはなかった。今ではいうのも恥ずかしいが、私は先生の前で号泣した。それが先生との出会いだった。」(あとがき からp154)

 

このエピソードは、緒領域でロジャリアンのカウンセリング方法論が「カウンセリング」であったころの一部の硬直化した方法論(理論)先導の後進指導関係性がよく現れています。

 

この特性が「しんどくてなんぼ」のカウンセラーの在り方が是とされたことへとも繋がっているのでしょう。

 

今月15日にご紹介予定の『「箱庭で遊ぶ」保育活動』には〈素人〉からロジャース理論に立脚した〈素人カウンセラー〉が鍛え上げられる指導のありようが窺われる記述が含まれています。河合隼雄vsロジャリアンの様相が別の角度から眺められる資料ともなります。


本書では、やはりロジャリアンから、ユング派の箱庭療法家と知られるようになった、三木アヤの箱庭療法を用いた教育分析を「サンドドラマ法」と名付けて、箱庭療法セラピスト育成の方法論としたことを紹介しています。

 

それは、東山が箱庭療法を体験させた少なからぬ学生が、心身の不調に陥ったために、その対策として、「置かれた箱庭をことばでもう一度整理して伝える(p74)」ことで、「内界を自我のコントロール下に置(p75)」き、行動化を防止することに奏功したことが述べられています。

 

その他、本著には、臨床家なら首肯する箇所が数多く、例の任意団体がしきりに糾弾した大教大当時、ご夫妻で巻き込まれた裁判沙汰からの窮地を河合隼雄が救済した意義が認められるように思われました。それが、京大教育学部の河合体制維持としても良かったんじゃにゃ~かと思われる次第です。