公認心理師 過去問研究[1069] 第7回悉皆検討〈42〉トータル・ペイン4側面 | こころの臨床

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第七回公認心理師国家試験問題(2024年3月3日実施)

問42  C. Saunders が提唱したトータル・ペインの 4つの側面に含まれないものを 1つ選べ。
1)  霊的〈spiritual〉
2)  精神的〈mental〉
3)  社会的〈societal〉
4)  身体的〈physical〉
5)  共感的〈empathic〉 

 

 

 

解は、5

 

「トータル・ペイン」の訳語が「全人的苦痛」であり、緩和医療、ホスピスに関わる問題であるとに気づいたら、「4側面」の記憶が曖昧であっても誤答することはない筈。1)から4)は、終末期の患者自身のペインであり、5)のみそこに2者が登場する。つまり他者(のペイン)を「共感(自らのペイン)」とすることが暗示されている。

 

つまり、この国試問題によってその将来的資質を問われる「科学者」即「実践者」には、「霊的〈spiritual〉」概念はそぐわず、精神的〈mental〉のフェイクかも、とふと感じたときに、カウンセリングの基幹理念である5) 共感的〈empathic〉を残してしまうのかも...。

 

ポイントは、1) 霊的〈spiritual〉と2) 精神的〈mental〉との差異の理解にある。そもそも、

mental を「精神的」と訳されたのにはどういった経緯・事情があったのだろう。

 

「精神医学」、「精神科医」は、psychiatry、psychiatrist であり、ギリシャ語ψυχή すなわちPsyche が、「精神」の原語であるにも関わらず。

 

以上の日本における訳語の慣用という問題から、あえてC. Saunders の提唱したspiritualを「霊的」と訳さざるを得なかったのは理解できる。

 

しかし、mentalになぜ「心理的」の訳語を用いなかったのだろうか。

 

ちなみに、bio-psycho-social modelの訳語は無論、「生物-心理-社会」モデルである。

 

さて、mental の語源は、「知性・心・精神」を意味するラテン語 mens(名詞)であって、 memini/ meminisseは「記憶している、心にとどめる」(...memory(英語))の意となる。

 

元々欧米の精神医療の現場で、ギリシア語起源とラテン語起源の用語が混在していた素地があり、それなりの使い分けがなされていたのであろうが、それらが日本に輸入されて学術文献を翻訳する際、用語選択の統一が成されず、現在の混乱に及んでしまったものと思われる。

 

 

 

 

 

[羅] mens sana in corpore sano     健全なる身体に宿る健全なる精神  

[英] a sound mind in a sound body

 

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