ブックレビュー箱庭特集④ドラ・カルフ『カルフ箱庭療法』1972 誠信書房 | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

ドラ・M・カルフ 河合隼雄監修 大原貢・山中康裕共訳 原題はSandspiel

 

本書は、河合隼雄監修となっているものの、山中康裕先生によれば、河合隼雄先生経由で翻訳がなされたわけではありませんせんでした。

 

山中先生が1966年に医学部卒業時に原書を入手して興味を持って訳そうとしたところ、すでに河合隼雄が版権を取っていたことがわかりました。

 

そこで、山中先生は、河合隼雄先生の教育分析の際に、すでに大原先生と共に訳し終えていた原稿を、河合隼雄先生に渡されました。これが1967年のこと。

 

しかし、1969年になって、先に河合隼雄編『箱庭療法入門』が出てしまいました。

 

そこで、あの原稿はどうなりましたか?と河合先生に尋ねたところ、机の引き出しを開けて、「あ、ここにあるわ」って。

 

5年間、訳稿が寝かされていたわけなのですが、その時は「そんなバカな、どういう人なんだ!」と山中先生も思われたようですが、その後、河合先生が申し開きをされたわけではなく、山中先生が自分なりに理解したことには、カルフさんの本は、「解釈が勝ちすぎて」「日本で治療法として普及しないと河合先生は最初に見抜いちゃったわけ、それで伏せられたんです。」(『精神療法』50-1,2024,pp.8-9)

 

さて、本著は、シュレーゲル博士の序文が載せられていますが、そこには、まずは、砂と湿った砂を捏ねて形作ることの重要性から語り起こされます。

 

カルフは、禅をはじめ東洋思想に造詣が深かったことも自ら記しています。

本文中の図版の第一番目に仙崖の円三角四角の写真(p13)が示されていることが印象的です。

 

河合隼雄先生が、この「砂遊び」が日本人に合うと気づいたと言われてきたわけですが、すでにそれ以前に、ドラ=カルフさんご自身が日本の臨済禅(仙厓義梵)に大きな関心を寄せていたという事実が明らかだったのです。