木曜レビュー[ドラマ/ドキュメンタリーのこころ] わたしの魔境(2023) | こころの臨床

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心理学は、学問的な支えも実践的身構えも、いずれも十全と言うにはほど遠い状況です。心理学の性格と限界を心に留めつつ、日本人が積み重ねてきた知恵を、新しい時代に活かせるよう皆さまとともに考えていきます。

今週からの連日投稿で昨年の宗教学会学術大会報告の開始に伴い、この木曜レビューでも「カルト宗教」を題材とした国内外の3つの映像作品について、5回に分けて連載していきます。

 

 

心理臨床学がその知見の蓄積を用いてカルト研究をしないのは、宝の持ち腐れに他ならないと思っています。河合-ユング心理学の日本の社会文化への解析は、カルト問題を読み解き解釈することに優れて有効な方法論です。

 

 

 

 

 

社会問題に関与するのは、体制に常に反発する左派の運動家の一派であり、学術の援用があってもそれは、己らの主義主張を裏付けるもののイイトコドリであって、純粋な学術研究でないと一方からは批判し、もう一方からは、「近代科学ではない」モノを奉じる派閥は国家資格者として適正でない、人間心理も「近代科学」で解明できる領域に留まって扱うことが、管制資格者の最低条件だとの批判が生じてくるわけです。(....以上、誰がどこで言ったとの出典はありません。つまり、にゃん自身のこれまでの内的な葛藤を言語化しているわけです…。)

 

 

 

さて、臨床実施に直接役立てるための知見は、日々新しく更新し蓄積する必要があります。

 

 

映像作品は、五感のうち視聴覚を動員できるので、自己研鑽のための時間が乏しい時の助けになってくれます。

 

 

 

 

今回紹介する昨年公開された『わたしの魔境』は、インディーズの作品であるだけに、その良い点とそうでない点が見出せるのですが、それについてはここでの議論の対象ではありません。

 

なにより、製作者の現代社会への警鐘は意義高いと思いますので、お薦めいたします。

 

...R18となるのは、陵辱の場面(これ必要?と正直疑問を覚えましたが)と死体損壊に至るシークエンスだったように思われるのですが、教育機関での教材となる可能性を視野に入れて、もう少しハードルを上げた脚本・演出であったらなあと残念に思われます。

 

 

 

 

現代社会で懸命に「(ユングが言うところの)自己実現」を目指す、一人親家庭で育った若い女性が、ブラック企業に騙されて就職してしまい、その後甚大な人間不信と心的外傷を蒙り、その自分を救済してくれると思わされ、世界救済を謳う理想的な集団命懸けで入信せざるを得なかった必然性がよく描けていると思います。

 

 

 

 

このようなドラマ(フィクション)と、ひかりの輪の上祐史浩代表、井上嘉浩受刑者のこころの支援を行っていた僧侶平野師、新実智光死刑囚と獄中結婚した妻の語り(ノンフィクション)が交叉していきます。

 

 

ラストでは、…ややネタバレになるのですが、現代の「カルト」のみならず、多くの「宗教」が往々にして断ち切ることを求める家族・親子の絆と後天的に植え付けられた信条理念との葛藤の結末が描かれることとなります。

 

 

 

 

次回からは、カルトの本場アメリカ合衆国で制作されたドミュメンタリーを紹介します。