⑪
峠杣一日・著
意宇社(おうのもり)の木々のさざめきの中、静かだが厳(おごそ)かな声あり(いい声だなあ)。
氣嶋法師(けのしまほふし)こと達磨嶋氣助(だるまじまのけすけ)が、倭文幣(しづぬさ)を手に祝詞言(のりとごと)を上げてゐるのだ。
何とも古めかしい、古物語(ふるものがたり)のやうな吉言(よごと)。
どうやら意宇の道祖神(さいのかみ・幸神)の神語(かみごと)らしい。
やまたのくに、やまたのおほかみ、やまたのみたま……などと聞こえて来る。
やまた(八岐・邪馬台)(八衢やちまた)とは、やまと(大和・倭・日本)の原義(げんぎ)と思ほゆ懐かしい響きだ。
すると、意宇社全体が眩(まばゆ)いばかりの光に包み込まれてゆく。
「わわわ、なに?なに?なに?!」
氣嶋法師を中心に幸ひ梟お冥(さいはひふくろふおみゃう)、招き猫お妖(まねきねこおえう)、睦び兎お卅美(むつびうさぎおみみ)の三人娘を乗せた地面一帯がぐんぐんと迫(せ)り上がる。
其処に現れたのは、天を衝(つ)く巨石だった。
眼下(がんか)に広がる雲海(うんかい)、頭上に赫(かがや)く太陽。
涌(わ)き立つ八重雲(やへぐも)に波文(はもん)を描いて揺(ゆ)らめくのは、石(いは)の御光(ごくわう・ブロッケン現象)。
や、光輪(くわうりん)がぐるりぐるりと回転すると、巨大な龍(りゅう)の姿に変はった。
いや、能(よ)く見れば八つの頭(かしら)に八つの尾(を)が見える。
八柱(やはしら)の龍神(りゅうじん)が、一心同体の如くに渦(うづ)を巻いてゐるのだ。
渦の中心には、雲に乗る二つの人影。
噫(ああ)!やまたひこのみこと、やまたひめのみことの御姿(みすがた)である。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
いのちいやちこ、いやさかえさいはひよいち。
つづく。