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峠杣一日・著
はて、意宇社(おうのもり)に拍手(かしはで)の音。
何とも清々(すがすが)しい響きに釣られて境内(けいだい)へ向かふ鉤手裡剣のお冥(かぎしゅりけんのおみゃう)、猫ま三味線のお妖(ねこまじゃみせんのおえう)、観音手鞠のお卅美(くわんおんてまりのおみみ)の三人娘。
あっ!と息を呑(の)んだ視線の先には、やあ久々の登場、意宇の道祖神(いうのさいのかみ)の化身(けしん)、氣嶋法師(けのしまほふし)こと達磨嶋氣助(だるまじまのけすけ)が居(ゐ)た。
私達の命は、外には森羅萬象(しんらばんしゃう)諸神諸佛(もろがみしょぶつ)こと、さの神、眞霊(幸)(さち・まことを育む働き)であり、
内にはご先祖こと、いの神、意霊(意血)(いのち・おもひを育む働き)であり、
両者は一体の理(ことわり)を現してゐるのが、道祖神であった。
其(そ)れは扨措(さてお)き、三人娘に取って氣嶋法師は好敵手(ライバル)でもあった。
幸ひ梟(さいはひふくろふ)、招き猫、睦び兎(むつびうさぎ)……縁起物(えんぎもの)の人氣を競ふ不動の強敵が彼(か)の張籠達磨(はりこだるま)、氣嶋だるまなのだ。
「なに、おれがマドー夫人に納(をさ)まれば白鷲の熊手(しろわしのくまで)と幸ひ梟とが目出度(めでた)く合体!だるまなんか目ぢゃないぜ!」
お冥の鼻息に、意宇社の木々が愉快(ゆくわい)さうにさざめくのであった。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
いのちいやちこ、いやさかえさいはひよいち。
つづく。