(53・最終回)
峠杣一日・著
天の川銀河の中心、天球大神宮(てんきうだいじんぐう)の参道(さんだう)が次第(しだい)に見えなくなると銀漢(ぎんかん・天の川)の灯台と浮き津(うきつ・船着場)の風景が戻った。
はらり、天の羽衣(あまのはごろも)。
やや、天女達が人魚(にんぎょ)の姿になって、すいすいと歓(よろこ)びの舞を奏(かな)でてゐる。
兇興翁(きょうきょうをう)の企(たくら)みは潰(つひ)え、宇宙は救はれたのだ。
「おおい、此処(ここ)だぞ!
ようやった!」
勾玉宝船(まがたまたからぶね・世一七福黄金の宝船よいちしちふくくがねのたからぶね)の船頭(せんどう)眞芽多磨自今多芽眞(まがたまじまたがま)が、信号火(しんがうくわ)を振ってゐる。
大小蛇(をろころち)の八郎コンビと走火のお愛(はしりびのおかな)、そして豆鼕翁(とうとうをう)が勾玉宝船に帰船した。
はて、天の川の水面(みなも)に映る勾玉宝船の影が揺(ゆ)らぐと中から何かが浮上して来た。
やあ、月影の財船(つきかげのたからぶね)だ。
すると灯台の欄干(らんかん)に留(と)まってゐた生まれ立ての梟鏡(けうきゃう)の子梟(こふくろふ)が、導(みちび)かれるやうに命の定めを司(つかさど)るともされる財船へ入ってゆく。
「さあ、地球へ帰らう!
天女方、お頼み申(まう)す!」
多芽眞守(たがまもり)が言ふと、人魚達の舞が三つ巴(みつどもゑ)の勾玉模様を描いた。
其(そ)の真ん中には、鳥居(とりゐ)と注連縄(しめなは)が合はせ鏡のやうに何処までも列(つら)なる通路が見える。
其処(そこ)へ月影の財船と勾玉宝船が、吸ひ込まれるかの如くに姿を消した。
日本古来(にっぽんこらい)の人世観(じんせいくわん・人生観)を常の理(とはのことわり)、三つ子の魂(みつごのたましひ)、大和心(やまとごころ)、幸ひ世一(さいはひよいち)等と呼ぶ。
一言で言へば世の中を好(よ)くする弥栄(いやさか)の心、意(おもひ・心に昇る太陽)である。
私達は、ただ生きる為に生きてゐる訳ではないといふ事だらう。
忽念(こつねん)、眩(まばゆ)い黄金(くがね)と銀(しろがね)の勾玉が地球の軌道(きだう)に現れた。
勾玉宝船と月影財船が、地球に帰って来たのだ。
噫(ああ)、天球の宝玉(ほうぎょく)、地球。
命灼然(いのちいやちこ)、弥栄え幸ひ世一(いやさかえさいはひよいち)。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
天球旅情篇、をはり。
地球慕情篇へつづく。
それでは皆々様、よいお年を。
よいお年を