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峠杣一日・著
「むむっ?!」
突然、竃火平霊太子(へひへひたいし)の持つ金色(こんじき)の大麻(おほぬさ・祓串はらひぐし)の柄(え)がぱちんと音を立てて左右真っ二つに割れた。
瞬間、死に神の姿も葈耳型宇宙円盤兇興翁(をなもみがたうちうゑんばんきょうきょうをう)の姿も搔(か)き消えた。
先刻(せんこく)の兇興円盤の突撃は、死に神ではなく竃火平霊太子の大麻へちくちく誘導弾(ちくちくミサイル)を撃ち込むものだったのだ。
相撃ちかと思はれた其の時、兇興翁の声。
「見たか!
私(わい)の頗(すこぶ)るかっこ好(よ)さっぷりを!
そして!
腰を抜かして皆々死ぬがよい!
兇興変化(きょうきょうへんげ)!
これが!
私の本当の姿よっ!!」
無限の宇宙空間に、ぱちりとひとつの眼(まなこ)が開いた。
ぎょろぎょろ、ぎょろぎょろ、腐れ眼弾丸(くされめだま)だ。
涙の雫(しづく)の如(ごと)く溢(あふ)れ出る無数の小さな腐れ眼弾丸が、大腐れ眼弾丸(おほくされめだま)を中心に渦(うづ)を巻く。
やや、まるで銀河そのものの姿だ。
バルジ(中央の脹(ふく)らみ)が兇興翁の頭部に変はると、円盤部(渦巻)を随(したが)へた兇興銀河(きょうきょうぎんが)、兇興大明神(きょうきょうだいみゃうじん)が出現した。
「きょきょきょきょきょきょ!
私の勝ちぞ。
斯(か)うなれば最早、天の川銀河ごと地球人類は滅ぼすのみ!
貴様らのやうな育ちの悪い蛆虫(うじむし)の分際(ぶんざい)が、我が物顔で宇宙へ出張って来るなどあってはならん事なのぢゃ!
けっ!
虫唾(むしづ)が走るわ!
全員死刑!!」
バルジ兇興翁が大きく口を開く。
「兇興砲(きょうきょうはう)、発射!!」
おどろおどろしい大腐れ眼弾丸の光跡(くわうせき)が、天の川銀河の中心を的(まと)にして突き進む。
「きょっほーう!
ゆけーっ!!」
しかし、前方の宇宙空間にぱっちり、ひとつの眼が開いた。
滾々(こんこん)と湧(わ)く泉の如く流れ出る無数の勾玉模様(まがたまもやう)の渦巻き、バルジに現れたのは豆鼕翁(とうとうをう)の顔だ。
此処(ここ)に豆鼕銀河(とうとうぎんが)、豆鼕大明神(とうとうだいみゃうじん)が顕現(けんげん)。
でんでん盾(でんでんシールド)がぽんぽんと鳴り、兇興砲弾(きょうきょうはうだん)を蹴散(けち)らした。
「己(うぬ)!
豆鼕!
邪魔ぢゃ!
きょーっ!!」
再び放たれた兇興砲も、ぽんぽんと虚(むな)しく四散(しさん)する。
「豆鼕よ!
なぜ地球人類に肩入れするのぢゃ?!
彼奴等(きゃつら)は救ひようのない阿呆(あはう)ぞ?!
迷妄念々(めいまうねんねん)の掃き溜(だ)め、宇宙の癌(がん)ではないかががががががっ!
きょ?!
ぎょえええええええええええっ!!」
急激に崩潰(ほうくわい)し始めた兇興銀河、絶叫(ぜっけう)する兇興翁自(みづか)らの口に開いたブラックホールの中へぺろり呑み込まれて消滅してしまった。
豆鼕翁は宇宙の豆である。
豆鼕銀河の姿も、豆鼕変化(とうとうへんげ)の序の口(じょのくち)に過ぎない。
人の迷妄念々を焚(た)き付けからかふて氣晴らししてゐるやうな兇興貧乏神(きょうきょうびんぼふがみ)に、そもそも勝機(しょうき)などないのだ。
さて、翁等の銀河変化の姿からは人間の本質の一端(いったん)が垣間(かいま)見える。
宇宙そのものは母(肉体・大地)であり、其処(そこ)から現れる眼は父(精神・芽)であり、そして生まれる子(生命・八百萬(やほよろづ)の稔(みの)り)で常の親子(とはのおやこ・永久の親子)の三つ子の魂(一(いち))となる。
其処に一貫(いっくわん)して息衝(いきづ)くのは、常の理(とはのことわり・永久の理)。
要(えう)は、倶(とも)に美(うるは)しき和(やは)らぎ、大和心(やまとごころ)であり、古来「意」(おもひ・心に昇る太陽)の一文字で示されてゐるものだ。
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【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
つづく。