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峠杣一日・著
「畜生奴(ちくしゃうめ)がっ!!」
突如、葈耳型兇興宇宙円盤(をなもみがたきょうきょううちうゑんばん)が船内全ての邪悪原人(じゃあくげんじん)を吐き出した。
兇頑(きょうがん)と兇闇(きょうあん)の梟鏡兄弟(けうきゃうきゃうだい)も兇蔵(きょうざう)や兇然法師(きょうねんほふし)達も最早(もはや)姿形を失ってをり、夥(おびただ)しい腐れ眼弾丸(くされめだま)のひとつの塊(かたまり)と成り果ててゐた。
次の瞬間、腐れ眼弾丸の塊は死に神の黒い影に包み込まれて完全に消滅した。
其の時、彼等の瞳の奥に映し出されたものは……。
噫(ああ)、天の川の浮き津(うきつ・船着き場)
。
其処から一直線に続く長い道を、両端にずらりと並んだ灯火(ともしび)が浮かび上がらせてゆく。
天の川の灯台を守る天女(てんにょ)達が持つ、手燭(てしょく)の明りである。
彼女達の間を飛び抜ける龍(りゅう)の子、瑤大蛇(たまをろち)の児瑤大蛇(このたまをろち)の小蛇(ころち)のころちゃんこと小蛇八郎(ころちはちらう)だ。
其の背に跨(まか)がるのは走火のお愛(はしりびのおかな)こと大蛇愛(をろちあい)と大蛇八郎(をろちはちらう)の姉弟、天女の燭台(しょくだい)を点(とも)してゐたのはお愛の放つ跳火(はねび)だったのだ。
ぐるぐると、巻き付くやうに灯台を登る小蛇八郎。
「頼んだよ!」
「合点承知(がってんしょうち)!」
お愛の合図でぴょんと灯室(とうしつ)に跳(と)び込んだ大蛇八郎、蓮権現転何(はちすごんげんころびなんぞ)に渡されてゐた蓮宝珠(はちすだま)をえいと光源(くわうげん)に投げ入れた。
銀漢(ぎんかん)の灯台を中心にして波紋(はもん)のやうに灯光(とうくわう)が広がってゆくと、銀河の大海原(おほうなばら)が落ち込む宏大(くわうだい)な円形瀑布(ゑんけいばくふ)が現れた。
天の川銀河の中心部ブラックホール、天球大神宮(てんきうだいじんぐう)。
遍(あまね)く命の故郷だ。
しかし、彼等(腐れ眼弾丸塊)が最期に観たものは一羽の女梟(めふくろふ)、否、お冥(おみゃう・兇冥きよみ)の姿であった。
さらば!邪悪原人(じゃあくげんじん)!
さらば!梟鏡族(けうきゃうぞく)!
はて、羽を広げたお冥が今、子梟(こふくろふ)を産んだ。
噫聖母お冥、梟鏡の石戸開き(いはとびらき)だ。
梟鏡族、再誕(さいたん)!
「己(おのれ)!
私(わい)の長の骨折りが水の泡ぞっ!!」
叫(わめ)く葈耳型宇宙円盤、兇興翁(きょうきょうをう)。
其の昔、梟鏡族を兇興幻術(きょうきょうげんじゅつ)で呑み込み邪悪原人なる傀儡(くわいらい)を生み出した張本人(ちゃうほんにん)は兇興大明神(きょうきょうだいみゃうじん)だったのである。
古来、祝詞(のりと)にもあるやうに女は全て母であり男は全て子である。
父の出現には、常の理(とはのことわり)たる三つ子の魂の精神が育まれねばならない。
其の間隙(かんげき)を衝(つ)くことが、兇興翁の奸計(かんけい)であった。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
つづく。