(38)
峠杣一日・著
どかんどかんと、兇闇(きょうあん)の梟鏡舟(けうきゃうぶね)を砲撃(はうげき)し続ける梟磐(ふくろふいは)。
土烟(つちけぶり)を上げながら翼を開くと、焰星(ほのほぼし・火星)の赤い大地を蹴(け)って飛び上がった。
「兇闇!
態々(わざわざ)こんなところまで何用(なによう)だ?!
この俺の不様(ぶざま)な姿を嗤(わら)ひに来たのか?!
ほっ?!」
声を発した梟磐。
それは兇闇の双子(ふたご)の兄、兇頑(きょうがん)であった。
昔々兇頑は地球人類のあまりの阿呆(あはう)っぷりに嫌氣(いやけ)が差し、こりゃあ付き合ひ切れんと新天地を求めて宇宙へ旅立った。
されど、そこは不毛(ふもう)の荒野(くわうや)であった。
力尽きてゆく仲間達、その邪悪魂(じゃあくだましひ)を喰(く)らひつつも旅を続けたが、遂(つひ)には彼ひとりだけが残り焰星の大地に落下。
残念無念の邪悪魂の塊(かたまり)はいつしか巨大な巌(いはほ)、梟鏡磐(けうきゃういは)となって生きてゐたのである。
「ちょっ!
たんまたんま!
兇頑様たんまっ!!」
黒烟(こくえん)に捲(ま)かれる梟鏡舟、帆柱(ほばしら)を上(のぼ)った兇蔵(きょうざう)が帆桁(ほげた)に必死にしがみ付きながら叫ぶが、梟鏡磐の砲撃は止(や)まない。
「小馬鹿廻(こばかまは)しに来たんかコラ?!
ほっ?!」
どんどんどーん!!!
「もはや、もはや兇頑様は迷妄念々(めいまうねんねん)そのものと化(くわ)して御座(ほざ)らう。
斯(か)くなる上は!」
兇然法師(きょうねんほふし)が、不規則(ふきそく)に早鐘(はやがね)を打つやうに鼓動明滅(こどうめいめつ)し苦悶(くもん)する兇闇の腐眼弾丸(くされめだま・邪悪魂)に進言(しんげん)する。
「ふほううう!!
兄者(あにぢゃ)よーっ!
さらばぢゃああああっ!!!」
爆沈寸前(ばくちんすんぜん)の梟鏡舟がくるりと反転、砕(くだ)け散りながらも梟鏡磐へと一直線に真っ正面から突撃してゆく。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
つづく。