(32)
峠杣一日・著
「ぷぷぽほう!」
海上に生えた梟鏡サボテン(けうきゃうサボテン)がぱっと兇闇(きょうあん)の姿に戻ると、鎮火頭頂部(ちんくわとうちゃうぶ)に残烟(ざんえん)を引きながら立ち泳ぎをしてゐる。
「見つけた!
彼処(あそこ)!」
操縦席から身を乗り出した江島千両姫(えしませんりゃうひめ)、通称(つうしょう)百足のお両(むかでのおりゃう)が、兇闇を指差す。
「おう!
でも、何か変ぢゃないか?」
大根島八手彦(だいこんじまやつでひこ)も出て来て八手ブーメラン(やつでブーメラン)を投げたところ、兇闇は幾多(いくた)の藁(わら)となって波間(なみま)に散った。
「む、やはり脱け殻(ぬけがら)か。
まだ其処(そこ)いらに居(を)る筈(はず)。
手分けして捜(さが)すぞ!」
白鷲天狗圓彦(しろわしてんぐまどひこ)も操縦席から出て、辺りを見廻(みまは)す。
「あ!」
東郷池(とうがういけ)の野天風呂(やてんぶろ)、お冥(おみゃう・兇冥きよみ)が突然声を帆(ほ)に上げて立ち上がった。
夜眼(よめ)が利(き)くお冥には、遠眼(とほめ)にもはっきりと圓彦が見えてゐたのだ。
やっと見付けたわと思ふも束の間(つかのま)、三機の機関摩天楼(からくりまてんろう)は兇闇を追って飛び去ってしまった。
またその頃、池の底には琥珀丸(こはくまる)が沈んでゐた。
宵闇(よひやみ)の湯烟(ゆけぶり)に仄(ほの)めく眩(まぶ)しいお冥の裸身(らしん)に打たれ、心の臓(しんのざう)が法悦(ほふえつ)の微睡(まどろ)みに浸(ひた)っちゃったのである。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか、南無あれかし大明神!
つづく。