『なんぞころびやおき 御魂ケ島篇』
(23)
峠杣一日・著
「それでは皆々様、亦(また)お会ひしませう」
新年宴会(しんねんゑんくわい)が終り、筑前国(ちくぜんのくに)の竈門太子(かまどたいし・竈門山地蔵尼の息子)と心星蔵(しんのほしざう・七福神の寿老人)が帰途(きと)に就(つ)く。
太子が纏(まと)ふ御光(ごくわう・グローリー・ブロッケン現象)に包まれた甲冑(かっちう)は、其(そ)の儘(まま)心星蔵と共に月天馬(ぐわってんば)に跨(また)がって天球世界(てんきうせかい・宇宙)をも翔(かけ)る事が出来る、沖柱博士(ちゅうちゅうはかせ)の新作であった。
今回太子が遣(や)って来たのは甲冑の受け取りともう一つの用向(ようむ)きがあったのだが、其れは亦別のお話である。
「其れ程(ほど)の氣持ちが有るのなら、力を貸(か)さう」
ほっと胸を撫(な)で下(お)ろすお幽(おいう)の前で朗(ほが)らかに頷(うなづ)いて居るのは、やあ久々登場、島後(だうご)は五箇(ごか)の里に住まふ矢五郎(やごらう)と其の妻お弓(おゆみ)である。
其の名に負(お)へる弓術(きゅうじゅつ)の達人、そんな二人に憧(あこが)れるお幽の弟子入(でしい)りが此処(ここ)に許(ゆる)された。
「とすると、二人のお幽(お幽とお錚)さんは伯父(をぢ)さん家(ち)に行く事となるが、圓彦殿(まどひこどの)はどうなさる」
と聞く沖柱博士に、此処に留(とど)まって機関摩天楼羽団扇(からくりまてんろうはうちは)の完成を待ちたいと答へるつぶら天狗(てんぐ)。
そんな訳で沖柱力研究所(ちゅうちゅうりょくけんきうじょ)には、住人(ぢゅうにん)である沖柱博士とおたね、其の息子の茶柱(ちゃばしら)と帆柱(ほばしら)兄弟、博士の両親丸蔵(まるざう)とお墨(おすみ)の夫婦(ふうふ)に加(くは)へて、迴門號(くわいもんがう)の修理を待つ一日翁(いちにちをう)、孫(まご)の来迎(らいかう)と一目(かずま)兄弟、一枝(ひとえ)と三葉(みつば)の一三子(ひみこ)姉妹、そして豆鼕翁(とうとうをう)、小蛇八郎(ころちはちらう)、胡蘆駒福兵衛(ころこまのふくべゑ)の一行(いっかう)、更に鬼の拳骨(げんこつ)と河童の魔凛(まりん)夫妻(ふさい)、白鷲天狗(しろわしてんぐ)の圓彦が暮らす事となった。
亦、丸蔵の兄が矢五郎で、矢五郎とお弓の娘が鬼火のお鈴(おにびのおすず・一日翁の息子余一の妻で来迎一目一枝三葉の母)である。
お鈴は弓術を余(あま)り好まなかったので、矢五郎とお弓は此の見処(みどころ)の有る若いお幽にこそ奥義(あうぎ)を伝授(でんじゅ)せむと張(は)り切るのであった。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
いちよあれかし、さいはひよいち。
まほらよいちそはか!
南無、あれかし大明神!
つづく。