『なんぞころびやおき 御魂ケ島篇』
(22)
峠杣一日・著
斯(か)く斯く云々(しかじか)、そげかね合点(がってん)。
後ろに束(たば)ねた翠(みどり)の黒髪を蛇の鎌首(かまくび)の様に上下させ、ふむふむと事(こと)の次第(しだい)を呑み込んだおたね。
「それなら、暫(しばら)く家(うち)に居たら好(い)いでせう」
と謂(い)ふ事で、一行(いっかう)は沖柱力研究所(ちゅうちゅうりょくけんきうじょ)への逗留(とうりう)を決めて草鞋(わらぢ)を脱いだ。
「え?ああ、仁王門(にわうもん)ね。
何(なあん)だ、潜ったのは蓮(はちす)の旦那(だんな)なの。
大丈夫よ、門の向かふは私の故郷(ふるさと)なんだから」
斯(か)くして其(そ)の頃(ころ)、と或(あ)る山寺(やまでら)。
金堂(こんだう・本堂)の建つ山上(さんじゃう)へと、梯子(はしご)を立て懸(か)けたる如(ごと)くに石段が続いてゐる。
其の中程(なかほど)に、はや、見覚(みおぼ)えのある仁王門、大山(おほやま・焼火山タクヒヤマ)の仁王門とそっくり其の儘(まま)である。
はて、門の奥、何も無い空間からごろごろと音が聞こえる。
ふっと唐突(たうとつ)に姿を現したのは矢張(やは)り蓮権現(はちすごんげん)の雪の玉、勢(いきほ)ひ能(よ)く石段を転(ころ)げ下(くだ)って行く。
おっと、雪の玉通過(つうくわ)の振動(しんどう)で石段を包む杉木立(すぎこだち)からぽんぽんと落ちる雪の子が、ころころと玉になり転がり跳(は)ねて蓮権現の雪の玉に続く。
石段を下(くだ)り切り茶屋(ちゃや)の立ち並ぶ参道(さんだう)を転げ抜けた処で漸(やうや)く止まった雪の権現玉(ごんげんだま)、追って来た無数の雪の小玉(こだま)がひとつの玉に纏(まと)まると、ぽおんと其の上へ飛び乗って雪達磨(ゆきだるま)が出来上がった。
「まあまあ、大きな雪達磨さんだこと。
有り難や、ありがたや」
「わあい、ゆきだまるさん、ゆきだまるさん」
「ゆきだるまさんよ」
参詣(さんけい)の人々が往(ゆ)き交(か)ふ帝釈天(たいしゃくてん)の霊地(れいち・霊場)、此所は因幡国(いなばのくに)は摩尼(まに)の御山(おやま)である。
蓮大権現転何(はちすだいごんげんころびなんぞ)は雪達磨大師(だいし)の胎内仏(たいないぶつ)と鎮(しづ)まり、雪融(ゆきど)けに芽吹(めぶ)く春を待つ事と相成(あひな)りましたとさ。
【よいこのみんなの合言葉を唱へよう♪】
「いちよあれかし、さいはひよいち」
「まほらよいちそはか!」
「南無、あれかし大明神!」
つづく。