『なんぞころびやおき 大極楽本尊郷篇』
(32)
峠杣一日・著
姫山(ひめやま)の空に、中秋の名月(ちゅうしうのめいげつ)。
弁天御殿(べんてんごてん)の露天風呂では、出雲弁天(いづもべんてん)と近江弁天(あふみべんてん)が月見を楽しんでゐる。
湯舟に浮かべた杯(さかづき)に、月影を酌(く)み交(か)はす二人。
するとはて、月の輪廓(りんくわく)がゆらり、曲玉(まがたま・勾玉)の姿へと変はった。
視線を上げた二人が見たものは、全長六十キロメートルにも及(およ)ぶ巨船(きょせん)、月影の財船(つきかげのたからぶね)であった。
因(ちな)みに月影の財船(つきかげのたからぶね)、また黄金の宝船(くがねのたからぶね)が曲玉(まがたま)の形とも見える事は、島根半島(しまねはんたう)が巨大な曲玉(まがたま)の働きと秘密とを宿(やど)してゐるからなのだとも伝へられてゐる。
月影の財船(つきかげのたからぶね)は、弁天御殿(べんてんごてん)から程近(ほどちか)い草原へと降りて行った。
さて、三途の川(さんづのかは)を発(た)った一日翁(いちにちをう)達の一行(いっかう)、はっと氣付くとあら不思議、迴門號(くわいもんがう)を背に姫山(ひめやま)の草原に佇(たゝず)んでゐるのであった。
「あらゝゝ、いらっしゃい」
「まあ、どうしたのかしら」
雲の乗り物で駆(か)け付けた出雲弁天(いづもべんてん)と近江弁天(あふみべんてん)が一行(いっかう)と見詰め合ひ、互(たが)ひにきょとんとしたらば年の暮れ。
はや、一面の銀世界(ぎんせかい)となった。
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つゞく。
それでは皆様、次回は来年、御機嫌よう。