『なんぞころびやおき 大極楽本尊郷篇』
(33:最終回)
「新年、明けまして御芽出度う御座います」
姫山(ひめやま)の弁天御殿(べんてんごてん)で年を越した一日翁(いちにちをう)達一行(いっかう)。
余一(よいち)と鬼火のお鈴(おにびのおすゞ)もやって来て、賑(にぎ)やかな年賀を迎へてゐた。
さて、三途の川(さんづのかは)での顛末(てんまつ)を小蛇(ころち)と子供達が身振り手振りを交(まじ)へて語る内に、おっとさういへば、皆すっかり失念(しつねん)してゐたが件(くだん)の山吹色(やまぶきいろ・小判)の事を思ひ出した。
「まあ、美しいこと」
と驚いた出雲弁天(いづもべんてん)が三方(さんぱう)を差し出して来た。
やあ、皆がまじゝゝと山吹色を眺(なが)め入(い)る中、ふっと佐比売山(さひめやま)に杜若(かきつばた)と淡色擬豹紋蝶(うすいろへうもんもどき)の彫刻(てうこく)、また以千代安礼賀志(いちよあれかし)の刻印(こくいん)が浮かび上がった。
するとまた、瑤大蛇の児瑤大蛇の小蛇(たまをろちのこのたまをろちのころち)のころちゃんこと小蛇八郎(ころちはちらう)の持つ姫山(ひめやま)の宝玉(ほうぎょく)がぽっと明るくなり、如意宝珠(にょいほうじゅ)の姿に変はるのであった。
やんや、めでたし。
此れで小蛇(ころち)の二つ目の宝珠が現れたのである。
「それでは、また会ひませう。
今年(こんねん)も宜(よろ)しくね」
稀有(けう)な出来事を目(ま)のあたりにして感慨無量(かんがいむりゃう)、近江弁天(あふみべんてん)と侍女(じぢょ)のお島(おしま)が空飛ぶ黄金の土器(わうごんのどき)の乗り物で帰って行く。
そして、胡蘆駒福兵衛(ころこまのふくべゑ)の応急処置(おうきふしょち)で、雪原(せつげん)から何とか飛び立った迴門號(くわいもんがう)。
今回、螢火のお総(ほたるびのおふさ)と鬼燈(ほゝづき)は休息(きうそく)を取る事となり見送ってゐる。
一日翁(いちにちをう)達が次に向かふ先は、隠岐諸島(おきしょたう)である。
迴門號(くわいもんがう)の修理(しうり)も兼(か)ねてゞあり、其れが出来るのは彼(か)の沖柱博士(ちゅうゝゝゝはかせ)を措(お)いて他には居(を)るまいて。
「ようーし。
いざ、隠岐島(おきのしま)へ向けて出発!」
第三部 大極楽本尊郷篇をはり。
第四部 御魂ケ島(みたまがしま)篇(仮)につゞく。