『なんぞころびやおき 大極楽本尊郷篇』
(31)
峠杣一日・著
阿弥陀仏(あみだぶつ)の化身(けしん)、骨肉大明神(こつにくだいみゃうじん)が皆の骨折(ほねを)りを労(ねぎら)ふと共に今回は極楽浄土(ごくらくじゃうど)へは来ずに引き返す様に諭(さと)すと、再び無数の浄土舟(じゃうどぶね)へと変はった。
すると、阿弥陀仏の計(はか)らひで極楽世一の宝船(ごくらくよいちのたからぶね)の島根半島(しまねはんたう)の部分からふっと月影の財船(つきかげのたからぶね)が浮かび上がり、三途の川(さんづのかは)へと降りて来るのだった。
月影の財船(つきかげのたからぶね)とは、言はゞ極楽浄土(ごくらくじゃうど)に於(お)ける黄金の宝船(くがねのたからぶね)であるのだ…。
「またね~」
浄土舟(じゃうどぶね)の上から手を振る、小蛇娘(ころちむすめ)のお嶺(おみね)。
其の教育係のお風(おふう)、また蓮権現転何(はちすごんげんころびなんぞ)も浄土舟(じゃうどぶね)に乗ってゐる。
一日翁(いちにちをう)、螢火のお総(ほたるびのおふさ)、来迎(らいかう)、一目(かずま)、一枝(ひとえ)、三葉(みつば)、鬼燈(ほゝづき)、豆鼕翁(とうゝゝをう)、胡蘆駒福兵衛(ころこまのふくべゑ)、児瑤大蛇(このたまをろち)の小蛇八郎(ころちはちらう)の一行(いっかう)と大破(たいは)した迴門號(くわいもんがう)とを乗せた月影の財船(つきかげのたからぶね)。
両者は暫(しばら)く三途の川(さんづのかは)の上空を並んで飛んでゐたが、月影の龍神が咆哮(はうかう)をひとつ轟(とゞろ)かせたのを合図に二手(ふたて)に分かれたのである。
そして、浄土舟(じゃうどぶね)は極楽世一の宝船(ごくらくよいちのたからぶね)へ、月影の財船(つきかげのたからぶね)は現し世(うつしよ)を目指して三つ巴の門(みつどもゑのもん)へと、其れぞれの帰途(きと)に就いたのであった。
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つゞく。