『なんぞころびやおき 大極楽本尊郷篇』
(28)
峠杣一日・著
「最早此れ迄」
「死なば諸共(もろとも)」
「道連れぢゃっ!」
蓮華神輿(れんげみこし)に揺(ゆ)られる迷妄念々(めいまうねんゝゝ)が、最後の切り札を出した。
自爆(じばく)!!
閃光(せんくわう)と砂塵(さぢん)が、爆風に乗って賽の河原(さいのかはら)を走った。
後(のち)、静寂(せいじゃく)。
やがて視界が回復すると、蓮華神輿(れんげみこし)の蓮台(れんだい)部分だけがぽつりと残ってゐるのが見えた。
其の周りには、業火の烏天狗(ごふくわのからすてんぐ)、三途の川子(さんづのかはこ)、賽塊の鬼(さいころのおに)、また骨肉一家(こつにくいっか)の屍(しかばね)が、折り重なって横たはってゐる。
おっと、あれは蓮権現転何(はちすごんげんころびなんぞ)と姉のお風(おふう・転風子コロビフウコ)。
冥界(めいかい)の住人達が楯になって守ったのだ。
其処へ一日翁(いちにちをう)、螢火のお総(ほたるびのおふさ)、来迎(らいかう)、一目(かずま)、一枝(ひとえ)、三葉(みつば)、鬼燈(ほゝづき)、豆鼕翁(とうゝゝをう)、胡蘆駒福兵衛(ころこまのふくべゑ)、児瑤大蛇(このたまをろち)の小蛇八郎(ころちはちらう)と小蛇娘(ころちむすめ)のお嶺(おみね)も集まって来た。
迴門號(くわいもんがう)は大破(たいは)したものゝ、皆無事であった。
さて、彼等が恐(おそ)るおそる蓮台(れんだい)を覗(のぞ)き込むと…。
何ともしぶとく、迷妄念々(めいまうねんゝゝ)はちろゝゝと残り火の如く燃えてゐるのだった。
つゞく。