『なんぞころびやおき 大極楽本尊郷篇』
(23)
峠杣一日・著
見よ、今、全てを消し去る死滅(しめつ)の巨砲(きょはう)、迷妄灰燼砲(めいまうくわいじんはう)が火を吹く。
しかし!古人(こじん)の教へにある様に、仮令(たとへ)九分九厘(くぶくりん)駄目でも残りの一厘(いちりん)に一縷(いちる)の望みを懸(か)ける信条(しんでう)を忘れてはならない。
命があるまゝで諦めて了(しま)ふ事は、迷ひの大蛇(まよひのをろち)の思ふ壺(おもふつぼ)なのだ。
あゝ、以千代安礼賀志、いちよあれかし。
其れ、迷妄灰燼砲(めいまうくわいじんはう)発射寸前の砲口(はうこう)に、ころゝゝゝゝりと氷塊(ひょうくわい)が放り込まれた。
たゞの氷ではない、月虹の氷(げっこうのこほり)である。
「ぎゃあゝゝっ!!」
断末魔(だんまつま)のゝたうち、迷妄灰燼砲(めいまうくわいじんはう)は内部から月虹(げっこう)の水蒸氣(すいじょうき)に包み込まれて消滅(せうめつ)して行く。
おゝ、大空に浮かんでゐるのは二機の起き上がり小法師(おきあがりこぼし)の乗り物。
月虹防壁(げっこうバリアー)を張ってゐた時の迴門號(くわいもんがう)、胡蘆駒福兵衛(ころこまのふくべゑ)が万が一(まんがいち)の為にと同時進行で急ぎ拵(こしら)へた月虹の氷(げっこうのこほり)を、蓮権現転何(はちすごんげんころびなんぞ)と姉のお風(おふう・転風子コロビフウコ)が起き上がり小法師の乗り物で運び出してゐたのだ。
つゞく。