『なんぞころびやおき 大極楽本尊郷篇』
⑧
峠杣一日・著
三途の川(さんづのかは)は賽の河原(さいのかはら)、骨肉一家(こつにくいっか)の根城(ねじろ)は物見櫓(ものみやぐら)を備(そな)へた簡素(かんそ)な建物であった。
其の玄関先には六地蔵(ろくぢざう)が立ってをり、其れぞれの前に水を湛(たゝ)へた土器(かはらけ)が置かれてある。
此の土器(かはらけ)、如何(いか)な黒雲(くろくも)が垂(た)れ籠(こ)める時も、中天(ちゅうてん)に掛かる月の姿を映して已(や)む事が無い。
斯(か)く有(あ)りたい、そんな人の心の水鏡(みづかゞみ)を示してゐるのだ。
そして、骨肉小屋(こつにくごや)の奥座敷には骨肉大明神(こつにくだいみゃうじん)が鎮座(ちんざ)するのである。
つゞく。