『なんぞころびやおき 女神御前篇』
(23)
峠杣一日・著
姫山弁財天(ひめやまべんざいてん)の侍女(じぢょ)お市(おいち)が祝詞(のりと)を上(あ)げる内に夜の帳(よるのとばり)が下(お)り、全天の星が其の声に呼応(こおう)する様に瞬(またゝ)き天の川(あまのがは)は滔々(たうゝゝ)と流れる。
次いで、姫山弁財天の琵琶歌(びはうた)に乗って卅三人(33人)の侍女達が領巾(ひれ)を振りつゝ舞(まひ)を奏(かな)でると、瑤大蛇(たまをろち)の児瑤大蛇(このたまをろち)の小蛇(ころち)のころちゃんを象(かたど)った産霊緒の壺(むすびをのつぼ)がすうっと中天(ちゅうてん)に浮かび上がり…。
ぽっ、と大輪(たいりん)の花火の如く眩(まばゆ)い耀(かゞや)きを残して無数の産霊緒の壺(むすびをのつぼ)となって星空の彼方(かなた)へと飛び去って行くのであった。
と、其の内のひとつが姫山(ひめやま)の火口(くわこう)に吸ひ込まれる様に下りて来ると、再びぽっと耀きを放って姿を消した。
中空(ちゅうくう)で八百万(やほよろづ)に飛散(ひさん)した産霊緒の壺(むすびをのつぼ)は、姫山(ひめやま)こと三瓶山(さんべさん)の他に、日御碕(ひのみさき)、美保関(みほのせき)、加賀の潜戸(かゝのくけど)、室原山(むろはらやま)、伯耆國大山(だいせん)、因幡國氷ノ山(ひょうのせん)、石見國恐羅漢山(おそらかんざん)、隠岐國焼火山(たくひやま)の九ヶ所、そして意宇の杜(おうのもり)の茶臼山(ちゃうすやま)等山陰(島根県鳥取県)各地の要所(えうしょ)へと鎮(しづ)まったのである。
![190530_191326.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20190530/19/cocochiyosa/15/84/j/t02200165_4128309614419066284.jpg?caw=800)
つゞく。