『なんぞころびやおき』
(60)
峠杣一日・著
無数の錫杖(しゃくぢゃう)で身動きを封(ふう)じられた迷ひの大蛇(まよひのをろち)だが、不敵(ふてき)な面構(つらがま)へでちろゝゝと舌だけを動かしてゐる。
一人の烏天狗が、仕込み錫杖からすっと刀身を閃(ひらめ)かせて近づいて来る。
神山烏天狗(かみやまからすてんぐ)の頭(かしら)、山刀斎(さんたうさい)である。
「ばかめ。
我等を斬れば、此のもじゃゝゝゝ野郎も死ぬ事となるぞ」
「さうよ、死ぬわよ。
あれえ、此の人殺し!」
「さうぢゃ、殺人鬼ぢゃ。
こりゃ見物(みもの)ぢゃわい」
大口を開けて、げたゝゝと嗤(わら)ふ迷ひの大蛇(まよひのをろち)。
「笑止(せうし)!!」
山刀斎(さんたうさい)裂帛(れっぱく)の氣合(きあ)ひが、時間も空間も一刀両断(いったうりゃうだん)!
まるで、世の全てが停止したかとも感じられた其の時!
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つゞく。