『なんぞころびやおき』
(59)
峠杣一日・著
滑々(ぬめゝゝ)と迷ひの大蛇(まよひのをろち)の首が溶け落ちる如くに分裂し、鎌首(かまくび)が増えて行く。
「人間の氣力など、高(たか)が知れてをる」
「所詮(しょせん)、愚かな虫螻(むしけら)に過ぎぬ己(おのれ)を思ひ知るがいゝわ」
「さあゝゝ最早(もはや)時間の問題、一巻の終はりよ」
舌舐めづりしながら毛助(けすけ)に囁(さゝや)く迷ひの大蛇(まよひのをろち)、くっゝゝと嘲笑(あざわら)ふ声が重苦しく響く。
実(まこと)に、残念。
「世(よ)の、見納めが此れか…」
血涙(けつるい)も涸れ、意識が薄れて行く毛助(けすけ)。
已(や)む無し、と烏天狗(からすてんぐ)の一団が一斉(いっせい)に仕掛けむと大地に降り立った。
![190523_180745.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20190523/18/cocochiyosa/dc/c2/j/t02200165_4128309614415011231.jpg?caw=800)
つゞく。