あれかし大明神
~扨抑物語 第二幕 99
峠杣一日・著
九十九、
天の川に住む銀(ぎん)の鯛(たひ)の群れが、黄金の宝船(くがねのたからぶね)の金(きん)の鯛の群れと入り交じって舞ふ。
船を先導する、大きな白金(しろがね)の鯛と黄金(くがね)の鯛とが、高く、宙に跳(は)ねた。
龍の咆哮(はうかう)が汽笛(きてき)と鳴る。
黄金の宝船(くがねのたからぶね)が、天の川の浮き津(うきつ)を発(た)つ。
綾布の短冊を天の羽衣(あまのはごろも)と纏(まと)った天の川の鯛達が、人魚(にんぎょ)に姿を変へて手を振る。
おや、川面(かはも)に虹色の波紋が立ち、茅の輪(ちのわ)の如く渦(うづ)となる。
其の中心から、ぽっとひとつの火が現れた。
と見るや、一直線に黄金の宝船(くがねのたからぶね)に飛び込んで来た。
火は、帆桁(ほげた)の上に止まって、離れて行く天の川をじっと、名残(なごり)の袖(そで)で見詰めて居る様に見える。
後(のち)に、鬼火(おにび)のお鈴(すゞ)と呼ばれる命の火である。
つゞく