~扨抑物語 第二幕 75
峠杣一日・著
七十五、
丸い月が、雲海(うんかい)に浮かぶ。
月暈(つきがさ)の影が、雲上(うんじゃう)を舞ふ。
あや、雲ではない。
空を埋(う)め尽くす、鯉幟(こひのぼり)の群れであった。
其の全てに、黄金(わうごん)の兎(うさぎ)が乗って居る。
兎が駆(か)る鯉幟の群れが、月を頭部として体を描けば大太法師(だいだぼふし)が踊り出す。
はや、うとゝゝした覚えはないが、何時(いつ)の間にか月が日と変はって居(を)り雲のひとつもなし。
![180603_175216.jpg](https://stat.ameba.jp/user_images/20180603/17/cocochiyosa/d2/17/j/t02200165_0640048014203989751.jpg?caw=800)
は、月を望んで孕(はら)む。
即(すなは)ち、精神を宿(やど)すなり。
光陰(くわういん)(日月)矢(や)の如(ごと)し。(順行の精神)
烏兎(うと)、日月(ひつき)の鳥(とり)と羽ばたかん。
ゆめゝゝ、一(いち)を忘るべからず。
此処(こゝ)は、一(いち)の子(こ)宿る荒島(あらしま)。
中海(なかうみ)から島根半島(しまねはんたう)を一望(いちばう)する、墳丘(ふんきう)の里。
つゞく