扨抑物語 第二幕
峠杣一日
一、
神山(かみやま)と姫山(ひめやま)の火口が赤く燃えて、噴煙を上げてゐる。
神山は、火神岳(ほのかみだけ)と崇められる大山(だいせん)。
姫山は、佐比売山(さひめやま)と称へられる三瓶山(さんべさん)である。
さて、神山を能(よ)くゝゝ見ると、火口周辺に群がり飛ぶ、無数の烏天狗に気付くだらう。
噴火の火と見えたのは、彼等の仕業であり、天(あま)の彼方から現れた黄金(くがね)の宝船を迎へる合図なのだ。
黄金の宝船は、常(とは)の命(いのち)を乗せて世を廻り行く磐船(いはふね)であり、接岸すると見るや、島根半島そのものと化した。
つゞく