扨抑物語 第二幕
峠杣一日
二、
「一三斎(いちざうさい)様、此度(こたび)の磐船(いはふね)には、中々な命が居(を)る様で御座いますな」
壮年の烏天狗が言ふと、一三斎と呼ばれた老いた烏天狗が静かに羽団扇(はうちは)で磐船を指しつゝ、
「うむ、頼もしい赫(かゞや)きの火である。あの命は、特に大切に守り育まねばなるまい」
老天狗が、羽団扇を宙に一振りすると、烏天狗の大群は一斉に翼に身を包み、掻き消す様に見えなくなった。
彼等は、神山を拠点として、出雲国(いづものくに)と伯耆国(はうきのくに)、隠岐国(おきのくに)に生きる命を陰乍(かげなが)ら支へてゐる、常(とは)の使徒である。
つゞく