台風一過、今日は秋晴れとなりました。気温が少し下がって気持ちの良い朝
です。私は朝から歯医者さん。また日常が始まります。

心地よき秋晴れは新しいトレーナー
◉連載小説「代わり筆・上」8
長屋の朝は早い。薄靄がたち始めると、もう其処此処の家から米の炊きあがる匂いが漂ってくる。吉乃が土間に立ち、朝餉の支度を始めた頃、腰高障子の向こうから声が掛かった。おみつだ。
「吉乃ちゃん、弁当にこれ、持ってきな。おいしく炊けたからね」
「まぁ、蕗。お父上の大好物です」
「昨日、仕事帰りに亭主が摘んできたのよ。旬の物を食べると寿命が延びるっていうからさ」
おみつは何かにつけて吉乃の面倒をみてくれる。
やがてあちこちで仕事に出かける亭主らとおかみさんたちの威勢のよい声が長屋中に響く頃は、夜もすっかりと明けて春の霞もお天道様に怖じけずいて退散してしまうのだった。
小さい頃から体の弱い母親の手助けをしていた吉乃は家事はお手の物である。長屋のおかみさんの話にはついていけなくとも、井戸端の隅でいつも懸命に働く吉乃に長屋のおかみさんたちはなにくれと手を焼きたがる。
盥を抱えて井戸に行くとおみつが一番に声を上げた。
「吉乃ちゃん、灰汁は足りてるかい」
「はい、昨日のうちにとぎ汁に浸けておきました」
「吉乃ちゃんはおっかさんに何から何まできちんと仕込まれているねえ、えらいえらい」
「本当にそうだよ。すすぎだって水を祖末に使うこともないし、見上げたもんだよ」