連載小説「幸せのパズル」12 | ryo's happy days

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 カナエは高坂陣の助の幾分ハスキーな声を思い出していた。

「今は百歳世代でしょうが。ある高名な学者がこの前テレビで言いよったけん、私はすぐメモしたんですよ」

 ズボンのポケットから取り出した四つに折りたたんだメモ用紙を読み上げる。

「今は青春の基準が変わったそうですよ。その学者によれば、七〇代が第一の青春。八〇代が第二の青春。で、九〇代が第三の青春というそうです。それからしたら我々は未だ第一の青春のど真ん中なんですよ」

「ほう、そりゃ良かですね」

「でしょう! まだまだ我々も捨てたもんじゃない。おおいに楽しみましょう」

 いったい誰がこんな馬鹿馬鹿しい年寄りを鼓舞する教訓めいた言葉を作ったんだろう。あのときは、そうだそうだ! と同調して気炎をあげたものの、酔いも冷めて夜道を帰るカナエの身体中に虚しい気持ちが押し寄せる。楽しみも少ない年寄り持ち上げて箪笥貯金を吐き出させようという魂胆にしか思えない。 

 阿呆らし。つい昨日だってテレビで報道していた交通事故。被害者は老人だと言ったがなんと年齢は七一歳だった。老人の基準って何歳よ…。そういえば佐知子がいいこと言ってたっけ。「あのねぇ、老人ってのはねぇ、自分がそう認識した時から始まるのよ」そう言うことですよねぇ。と言うことは、これから何の希望もない人生のどこが青春。と思う私はもうすっかり老人かぁ。